王都オランデール伯爵家14
同じ爵位のセーレライド侯爵家とキャストール侯爵家。両者を天秤に掛けたら、どちらに傾くのか。考え抜いた末、ジャスティンが最後に選んだのはこのことだった。これに都合の良い装飾を施し、見栄えを良くした上で惹きつけるしかないと考えたのだ。
「父上、時間をありがとうございます。実はサブリナを一時的に伯爵家に戻したいのですが」
「理由は」
「はい、セーレライド侯爵をお迎えするにあたっては夫婦が揃っていた方が自然ではないかと。社交シーズンにサブリナが邸を空け王都から遠く離れた所にいるというのは、おかしな印象を与る可能性があると思ったのです。セーレライド侯爵がその理由を探ればクリスタルの貴族学院でのことに行き着くでしょう。そうなってしまえば、クリスタルをセーレライド侯爵家へ嫁がせるのが難しくなります。嫁がせるにも条件が悪くなるでしょうし」
ジャスティンは当然という体で理論を展開した。セーレライド侯爵家に重みが傾いているのだから、そちらへ向けた体裁を整えるべきだと。
「セーレライド侯爵家ならば、この国の貴族学院で何が起きたかの大筋は疾うに知っているだろう、王子が絡んでいたのだから。そこにクリスタルのことまでは含まれていなくても。そして、オランデール伯爵家に来るまでには更なる情報を得ているはず。それらを事実に結び付ければ、クリスタルが修道院にいる理由など知られるのは時間の問題。構わん、サブリナは不在で」
「しかし父上、クリスタルの為にも体裁を整えたほうが」
「出来ればクリスタルはセーレライド侯爵家の長男に嫁がせたい。しかし、次男でも三男でもセーレライド侯爵家ならば構わん。取引の強化が出来るならば。若しくは、隣国の他の貴族家でもな。おまえが新たな取引先をセーレライド侯爵から紹介してもらえたならば、条件にクリスタルを組み込めばいいだけだ」
「それではクリスタルは…」
ジャスティンは見込み違いをしていた。父がセーレライド侯爵を迎えるにあたり体面を保つと踏んでいたのだ。しかし、父が選択したのは取引。クリスタルは良い取引先があり使えるようならば、使えということだった。
考えてみれば父の選択に不思議はない。これからもオランデール伯爵家はこの国にあり続ける。キャストール侯爵がいるこの国に。けれどクリスタルがこの国で父の望む貴族家に嫁げるかは分からない。だったら行き遅れることが無いよう、この機会に隣国での嫁ぎ先を見つける方がクリスタルにとっても良いと父は判断したのだ。しかも取引先ならばお互いの関係強化の為にクリスタルが軽んじられる可能性は低いと考えたのだろう。
だからこそサブリナがいる。
その為にも尚の事サブリナがいる。
父を説得出来ないことには、キャストール侯爵へ接触は出来ない。そして急がなければ、セーレライド侯爵がやって来るまでにサブリナを連れ戻すことが出来なくなる。
どうしてこのタイミングで重なってしまったのかと、執務室でジャスティンは閉塞感に包まれたのだった。




