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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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王都郊外クロンデール子爵家厩舎1

ハーヴァンの実家、クロンデール子爵家の王都内にあるタウンハウスはとても小さい。邸というよりは、商談をする為の事務所のような位置付けだ。しかし、王都郊外にある邸は飾り気こそないもののそれなりの建物。そして併設された厩舎にはクロンデール子爵家の大切な商品である名馬が何頭も飼育されていた。


ジョイスは仮眠を挟みながら明け方まで二日分の仕事を片付け、何とか作った時間でこの日ハーヴァンと共にクロンデール子爵家の厩舎にやって来ていた。父が用意してくれる支度金を選ぶ為に。

この支度金は色々な意味があるものだ。


アルフレッドが婚約破棄をしなければ、ジョイスは王子の側近、そしていずれは国王の側近になっていた。ハーヴァンはそのジョイスの従者。子爵家の次男の行く末としては、大当たりだったはず。それが一変、外れよりも酷い、何も無いになってしまった。ハーヴァンをクロンデール子爵家から預かっていた父としては、本来得るはずだった未来に対し補填したいという気持ちがあったのだろう。公爵という立場上、クロンデール子爵へ『申し訳なかった』という言葉を掛けることは難しい。けれど、この方法ならば馬を二頭買うだけ。それもハーヴァンの次の未来に繋がるであろう馬を。潰してしまった未来への額としては少ないが、子爵に一定の金額を支払うには良い理由になる。


「そろそろ父上が言っていた『古くからの友人の娘さん』が考えている面白いことを教えてくれないか、ハーヴァン」

ハーヴァンもまたジョイスと同じ場所を目指すと父は言っていた。ジョイスの馬が手土産になるには、キャロルが何を考えているか知っている方が選びやすい。ただジョイスの詰まらないプライドがキャロル本人から聞くのではなくハーヴァンから教えられるということに苛ついてはいるが。


二重国籍のことだって、ハーヴァンは知っていた。それは、近くにいたから知らされていたのか、それともハーヴァンという人間だからなのか。ジョイスがファルコールを通過する時にハーヴァンに会い、二重国籍について知らされることなどキャロルなら予測していただろう。でも、ハーヴァンがジョイスだけにそれを知らせるかどうかまでは未知数。あの時はサーゼストだったが、他の者が一緒に来る可能性だってあったのだ。その者にキャロルの情報をハーヴァンが告げることはないという確信があったからこそ、菓子まで持たせジョイスに会わせた。


父からハーヴァンのファルコール行きを聞いた時、ジョイスはハーヴァンから知らされなかったことに対し他意はないと感じていた。今でもハーヴァンに隠したい考えなどはないと言い切れるが、確実に『ある』ものがある。どうしてそれが短期間で出来たのかは分からないが、ハーヴァンとキャロルの間には信頼関係があるのだ。一方的ではない双方向の。思い返せば、ハーヴァンは王都に戻ってからファルコールでの話を一切口にしていない。キャロルの為を思ってそうしているということだ。彼女のファルコールでの楽しい暮らしを守る為に。それを守るように言ったのはジョイス。ハーヴァンはまたジョイスの言葉も守っていたということだ。音にするということは、他者の耳にその情報を届ける機会を増やしてしまうのだから。


しかし、今ここには馬だけ。そろそろ面白いことを教えてもらってもいいだろうとジョイスは思ったのだった。違う、面白いことを知りたいのではない、キャロルが何を考えているのか知りたいと思ったのだ。

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