王宮では7
午前の会議の議題は貴族学院の体勢について。
議題内容に重いや軽いがあってはならないが、アルフレッド達は初日よりは幾分気楽に構えていられると最初の数分は思うことが出来た。
「既に新たな一年が始まっているが、貴族学院の体勢は変えなければなりません」
「学院長と数名の教師を変更せざるをえません」
「カトエーリテ子爵令嬢には感謝すべきなのか悩むところですな」
「違うのでは。キャストール侯爵令嬢が提案したことを実行し判明したのですから」
「しかし、見事なまでに男性教師のみでしたな、不正に関わったのは」
議題と話される内容は一致している。学院長や教師を変えるということがメインなのだから。しかし、そこへ辿り着いた原因が悪すぎる。学院内で特定の生徒の成績を学院側が組織的に改ざんしていたとは。本来、生徒全員の成績を公平に評価すべき学院で。
そして、その特定の生徒の一人がシシリアで、もう一人がスカーレットだった。
芳しくないと思われたシシリアの学科は音楽と作法だけだった筈。それが蓋を開ければ、他の学科も平凡なものだったのだ。
貴族学院は閉ざされた世界。通常であれば、蓋は開かない。それを知るが故に学院長を始め教師達はアルフレッドが大切にする女性というだけの理由でシシリアの成績を甘くつけたのだった。
学院長は王族であるアルフレッドが学院での日々に不満を持たないように。その考えが、アルフレッドのシシリアへの態度から成績にまで影響してしまったのだ。
教師達もまたアルフレッドの為になることをすれば、学院長からの評価が上がると思いシシリアの成績に目を付けてしまった。
どうしてこんなことに。誰がそんなことを頼んだのか。
アルフレッドは心の中で叫ぶと同時に理解した。己の行動が頼んでしまったのだと。シシリアを大切にするという行為が、スカーレットを冷遇するという行為が。
周囲はアルフレッドが何も言わなくとも、シシリアを妃にしたい、その為にはスカーレットを排除したがっていると解釈したのだ。
その証拠に教師達は、スカーレットの成績を必要以上に悪く評価した。未来の王妃には向かないと思われるよう。
ここでもまたアルフレッドが発端となり、様々な思惑がスカーレットを傷付けた。
例外は公平な目を持ち続けた音楽と作法の女性教師達。この二つは誤魔化しようが無い教科。絶対的な目で評価されていたのだろう。
アルフレッドは正確に理解した。シシリアへ感謝したほうがいいのか悩むと言った者の真意を。養女に迎えようと思った家々は評価と本人が一致しないから不思議に思ったのだ。そして調査がなされ、全てが白日の下に晒された。シシリアの学力が学院の膿を出す足掛かりになったが、元を辿ればシシリアが婚約者のいるアルフレッドに不用意に近付いたことが原因。
何より、婚約者でもなんでもないシシリアへ肩入れしたアルフレッドが全てを招いたと言いたかったのだろう。
今回はアルフレッドだった。しかし、貴族学院には男爵位から公爵位までの様々な貴族の子女が通う。同じことが起こらない為にも、学院の体勢をどうするかは重要な問題だ。
そして、アルフレッドの為に不正をした大人達をどうすべきか。本来は導くべき立場の大人が犯した罪に対して。
アルフレッドは解雇という大鉈を振るうだけでは済まされないと理解した。それ相当の罰を与えなくては、同じことが起きてしまう可能性がある。
学院長も教師もアルフレッドの為に良かれと思って行った。そしてそのアルフレッドに罪を言い渡されるのだ。ここで甘い対処をすれば、全ては王家によって仕組まれていたからこんな程度で済むのだろうと思う者も出て来る。
最初に思った軽い議題は、人の人生を左右するという重いものへ変わっていったのだった。




