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夢から無理やり目覚めた後、薫はあまり良く眠れなかった。続きを見てしまったらどうしようという気持ちが大きかったからだ。勿論どうせ起こらない未来だとは分かっている。しかし似たようなことが起きないという保証が、前回までの夢に比べかなり少ないように思えたのだ。
最初の夢のようにスカーレットになった薫がベンジャミンを産む可能性は、今のところ限りなく低い。だから、二回目の夢のベンジャミンがスコットに会いに行くということも実現しないように思う。でも、サブリナとジャスティンの関係性が今後どうなるかは未知数。しかも、薫は今、正に、本当のところどうなのか探ろうとしている。下手をすれば、夢の中のジャスティン殺害の後押しをすることになりかねない。まあ、ノーマンにその役が回らないようにすることは絶対にするし、出来るはずだが。ただ、それはノーマンが実行しないだけであって、他の誰かが行えば同じ結果がやってくる。
デズモンドだってそうだ。最初の夢で見たあの昏い表情。あの時の薫は、デズモンドがスカーレットを身籠らせ捨てたことへの後悔を滲ませていると思っていた。しかし本当にそうだろうか。夢で見た場面だけで断定すべきではない。
薫が知っているデズモンドはマーカム子爵家の次男だとか、現在は国境検問所の仕事をしているという事実ばかり。少し踏み込んだ情報といえば、農耕への見識があること。しかも貴族なのに自ら作業をすることを厭わない。そしてその顔や話術から女性にもてまくることだ。
でも、どうして?
デズモンドは何故その見た目からは想像がつかない地道な農耕作業を知っているのか。
もてるのに、特定の女性がいないのは何故か。
それに、キャリントン侯爵は今まで都合良く使っていたデズモンドをどうしてファルコールへ送ったのか。デズモンドまでとはいかなくても、優男ならば王都にいくらでも居ただろう。
短い付き合いだからまだ良く分からないと言えばそれまでだが、薫はデズモンドの本当の気持ちを何一つ知らないように思えた。キャリントン侯爵の裏をかきたいだろうと考えたのは、前世の自分を重ねたからに過ぎないのだし。
あの昏い表情をデズモンドがどうして浮かべたのかを知る為に、もっと本人と向き合う必要がある。デズモンドが昏い表情を浮かべる切っ掛けが起これば、それがサブリナとの関係に繋がる可能性がある以上。
薫が今知るデズモンドはスカーレットを身籠らせ捨てた夢の中のデズモンドではない。ファルコールでの楽しい暮らしに貢献してくれるデズモンドなのだから。
見た方が良かったのか、見ない方が良かったのか分からなくなる夢。でも可能性を見せてくれたのだとすれば、これから防ぐことを考えていけば良い。
朝食の席で薫はサブリナとノーマンの顔を本人達には気付かれないようしっかり見た。何年後くらいの未来だったのか探る為に。
ご訪問ありがとうございます。サブリナをここまで引っ張ってきたのは三つ目の夢の為でした。
話を早く進めたいのですが、どうしてか長くなってしまいまして。お付き合いありがとうございます。来月も宜しくお願いいたします。




