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ダイエット中は止めた方が良いと言われる大皿から好きなだけ取り分ける食べ方。しかもピザはトッピングによって何となく一枚一枚が違うように見えるので、少しずつでも食べてみたくなる。
薫は確信していた、サブリナが昨晩よりも夕食を多く食べていると。騎士達が勢いよく食べるのでそれにつられるということもあるが、今夜の勝因はデズモンドとリアム。社交慣れしている二人の話術は見事としか言いようがない。楽しく食事をさせてくれたのだ。サブリナは知らず知らずのうちに食べ物を口に運んでいたのだろう。
因みにスコットはまあまあ、ケビンとノーマンは仕事柄無駄口などきかなかったのだから、上手いはずがない。それも個性だから薫としては見ていて楽しいが、こういう時にはデズモンドとリアムに限るようだ。
賑やかな食事が終わり、後片付けを終わらせると薫はつい独り言を音にしてしまっていた、『良かった』と。
「本当に。サブリナ様、ここに来た日に比べたら表情が良くなりましたよね。キャロル、今晩は良く頑張ったご褒美にマッサージをしましょう」
「ナーサも疲れているでしょう」
「いいえ、わたしはキャロルのお世話をするのが好きなので、それをさせてもらえない方が疲れます」
どういう理論なんだと思いながらも、最近の働きを労おうとしてくれているナーサの厚意を薫は有り難く受け取ることにした。
そして、あまりの心地よさに寝落ちをしたのだった。
前回、前々回と今回は何かが違う。イービルからモンドとイマージュという存在を聞いていたからだろうか。
薫は夢を見始めた瞬間から、これは本当ならば起こるはずのことだったと理解した。そして、前々回同様、この夢にまたデズモンドが出てきた。時間は経過したようで、夢の中のデズモンドは年齢を重ねている。一体何歳なのだろう、分かるのは哀愁を帯びたイケメンになっているということだ。
その何歳だろうと美しいデズモンドはサブリナと話している。しかもサブリナの腹は随分と大きい。そろそろ臨月といったところではないだろうか。
「この子が産まれてくるのが待ち遠しいわ。あなたに似ているといいのだけれど」
「それは困るんじゃないか、サブリナ」
「大丈夫よ。ジャスティンは近くこの世からいなくなるわ。お父様経由でとても腕の良い人をお願いしたから」
「随分物騒な知り合いがいるんだな、君の父親には」
「ええ、物騒だけどとても力を持っているわ。この子が男の子だったら、オランデール伯爵家をレスターの代わりに継いでもらうのはどう?あなたの子供に」
「それは無理だろう。通常は長子が」
「何か方法はあるわ」
「レスターだって君の子だろう」
「いいえ、ジャスティンの子よ。だから、嫌いなの」
「嫌いでも、この子の為にレスターは上手く利用しないと。俺は表には出られないから」
理解が追い付かない会話がデズモンドとサブリナの間で繰り広げられる。どういうことだろうか。たった二人の登場人物なのに、情報過多だ。そして、サブリナはとんでもないことに手を染めようとしている。
この場面の前には何があったのか、どんなに知りたくても薫には決められたシーンの夢しか見ることが出来ない。もどかしいと思った瞬間だった、場面が切り替わりノーマンが血の付いたナイフを捨てていた。




