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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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キャストール侯爵の手紙には、既に決定がなされた重要事項が書いてあった。

一つ目はスカーレットと侯爵の両者に二重国籍が発給されるということ。二つ目は今後ファルコールでは隣国からの長期滞在者に身元引受人が不要になったという特例に関するものだった。しかも、外国人に対する労働賃金法もファルコールでは不要になると。侯爵の手紙の中には、リクエストされたサラの身元引受申請は行ったが、直ぐにその必要はなくなったという回答がやって来たとも書いてある。即ち、サラはいつでもやって来られるということだ。序に鍛冶職人も。


ここまでの内容ならばBが一泊の延長を申し出ることはなかった。薫がキースにこの事を話し、サラが来る日に合わせ歓迎の夕食会をしようと申し出ればいいだけだったのだから。


しかし、手紙には二重国籍について続きがある。両国の国民権を取得するにあたって、キャストール侯爵家の二人にはそれぞれの国から二重国籍を認めたという二重国籍証明書なるものが発給されると。そして、スカーレットの分は弟のダニエルが長期休暇に入ったら、アルフレッドの命でファルコールへ届けることになったとも。


侯爵の手紙にはアルフレッドの建前は『仲の良かった姉弟に亀裂を生じさせ申し訳なく思う。ついては姉弟が久し振りに語らう機会を与えさせてもらいたい』というものだが、本音は偵察だろうと書いてある。


薫は理解した、アルフレッドはダニエルに偵察を命じることで『踏絵』をさせるのだと。ダニエルの報告内容によっては、キャストール侯爵家は立場が悪くなってしまう。将来キャストール侯爵家を継ぐダニエルが、アルフレッドとスカーレットだったら踏むのは言わずもがな。

侯爵が建前だと書いた『仲の良かった姉弟に亀裂を生じさせ申し訳なく思う』に正しくなってしまう。



薫は温泉に浸かりに行ったBが館に戻ってくると、ケビンとノーマンを交えてお茶をしようと誘った。

「わたしがお茶を持ってくるから、三人はここに座って待っていて」


Bはその行動で察した、スカーレットが十分な時間をくれたのだと。

「お強い方だ」

「どういう意味だ?」

「今回の手紙の内容は二重国籍や隣国の者の長期滞在に関してだったのだが…」


Bの話を聞いたケビンとノーマンも理解した。スカーレットはダニエルの訪問に何の恐れも抱いていないと。いつもと変わらぬ表情、寧ろ少し楽しそうにも見えたスカーレット。しかも、三人が情報を共有し合う時間を与えた後で、自分も参加しこれからを話し合いたいということだろう。それは、Bの宿泊は当初の予定通り一泊で十分ということ。何も悩みはしないということだ。


お茶の用意をしていた薫は、三人を少し待たせておけば勝手に情報共有をしてくれるだろうと考えていた。しかも、今後の対策も練りながら。先のことを考えてもどうしようもないので、一先ず丸投げしただけだった。ただ、この後確認しなくてはいけないことはある。それは、最近のダニエルについて。当分会うことはないと思っていたが、顔を合わすならば情報は得ておいた方が良いだろう。Bならば、邸内でダニエルを見ているはずだ。

問題はアルフレッド。シシリアを修道院へ入れ、ジョイスを隣国のパートリッジ公爵の下へ送っているという事実は知っているが、その事実から何をどう考えているかは分からない。

薫の知るダニエル、そしてアルフレッドは王都を出る前までのものなのだから。

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