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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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ツェルカは課された罰をしっかりと果たした。

サブリナにファルコール風のワンピースを着せ、夕食の時間前に食堂に連れて来たのだった。


「サブリナお姉様、今日のお夕食からは食堂でここに暮らすみんなと食べましょう」

伯爵家ではどのような格好をして夕食の席に付いていたのかは分からないが、サブリナがしきりにワンピースを気にしている。その姿は『こんな格好で本当にいいのか』と態度で不安を表しているようだった。

そこで薫はサブリナの不安を少しでも解消すべく、どういう人達と食事の席を共にするのか教え、だからこそ気楽な格好で大丈夫だと伝えたのだった。


「それでね、お姉様、ツェルカから聞いたと思うけど、わたしのことはキャロルと呼んで欲しいの」

薫はこのファルコールで新たな人生を始める為にキャロルと名乗っていること、ホテルを運営していることなどをサブリナに説明した。因みに前半部分は周囲の人達が捉えている意味合いとはかなり違うが、薫にとっては真実だ。


「だから、今日、この瞬間からわたしのことはキャロルと呼んでちょうだい」

「分かったわ。話し方も気を付ける…けれど、急には難しいから、おかしな話し方になっても許して頂戴」

「勿論よ。それでね、この際だからお姉様もここにいる間だけは呼び方を変えてみましょう?好きな名前はないかしら」

「ないわ、好きな名前なんて。それにそんな必要もないと思う」

「では、せめて愛称で呼ばせて。わたしが小さい時に呼んでいたサビィ姉様と」

「スカー…、キャロル、わたしはあなたに姉様と呼ばれるような人間じゃないわ。だからサビィでいいわよ」


歳の離れたツェルカから『さん』を取ること同様、子供の頃に面倒を見てもらったサブリナから『お姉様』を取るのはなかなかハードルが高い。しかしここは慣れだ。ナーサ達が『キャロルさん』から『キャロル』と呼び方が変わった時に今まで以上に距離が縮まったと薫が感じたことを思えば、愛称呼びはきっと良い方向へ繋がるはず。


それにツェルカやデズモンドから聞いている限り、伯爵家ではサブリナを愛称呼びなどしていなかっただろう。ジャスティンを含めて。

薫がスカーレット、そしてキャロルと呼ばれることで前世から気持ちを切り離していったことを考えると、伯爵家とは違う呼び方はきっと同じような効果をサブリナに与える気がする。


「ツェルカ、あなたもサビィと呼ぶようにしてね」

「キャロルさん、それは…、流石に」

「あら、わたしのこともキャロルさんと呼べているのだから出来るわよ。サビィに別の人間になることを楽しませる為にも」


サブリナ、サブリナ様、若奥様、恐らく使われているだろう呼び方を全て排除したい、それが薫の願い。ツェルカのサブリナお嬢様という表現にも『サブリナ』が入ってしまう。

だから薫はこの気持ちをツェルカに気付いてもらう為に、後半部分を強調して伝えたのだった。


「分かりました、キャロルさん。サブリナお嬢様、ここでだけですが、これからサビィと呼ばせていただきます。奥様には内緒にして下さいね」


侯爵令嬢という立場が上の者から子爵家の使用人への命令とでも受け取ったのか、サブリナはただ頷いて了承を示したのだった。

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