王宮では29
父である国王からの『使節団を送ってもらう代償は随分高くついたものだ』という言葉に隠された意味をアルフレッドは考えていた。
スカーレットとキャストール侯爵に発給する二重国籍証明は二枚。何十枚も発行するわけではない。しかもアルフレッドの読み通りならば、こちらが何もしなければスカーレットは使う気などさらさらない。キャストール侯爵に至っては、スカーレットが使用しない限り使う必要がない人物。即ち二枚発行したとしても、使われる可能性はほぼないということだ。但し、使われる事由が発生すれば、それは即座に二枚使われることを意味するのだが。
加えて隣国の者におけるファルコール長期滞在及び労働許可。長期滞在者はファルコールに金を落とす。労働許可にしても、ファルコールで足りていない労力を提供してくれると考えればそこまで悪い話ではない。第一外国人を雇うということは、大抵の場合労働力が足りていない仕事ばかりだ。
パートリッジ公爵からの要求は、個人に発給される二重国籍はキャストール侯爵家への違約金支払いの延長線上にあるようなもの。他の二つも直接金銭が絡むようなものではない。
しかし、国王には高くついたと見えているということだ。
その理由は…。
考えなくてはいけないのは、あのスカーレットがわざわざキャストール侯爵領内で一番王都から遠いところを選んだということだ。最初は隣国へ渡りやすいとか、水源があるという政治的な側面ばかりを思い浮かべていたが、もっと肝心なことがあった。それは、アルフレッドが簡単には『今のスカーレットの様子を確認出来ない』距離ということだ。
あの会議が催された時、気付けば既にスカーレットはファルコールへ向かっていた。
理由が理由なだけに、またその理由を作ったのが自分という引け目からアルフレッドはスカーレットの様子を見に行くことを避けていた。勿論、執務が忙しかったこともあるし、ファルコールまでの往復に掛かる時間をスカーレットの様子を見に行く為だけに使えなかったということもある。しかし全く事実を見ていないのだ。
違約金さえ払えば良いと思い、スカーレット本人との対話を怠ったことが悔やまれてならない。会議期間中にアルフレッドが思った、もっと簡単に行き来が出来る場所にある王家が所有する場所をスカーレットに提供していれば良かったと今更ながらに思えてしまう。
高くついた理由を国王は知っている。それは、スカーレットの今を知っているということだ。アルフレッドがまだ持っていない力を持つ国王ならば。
では、アルフレッドはどうすべきか。幸運にも貴族学院が長期休暇に入る。側近は断られたが、スカーレットに最も近付ける人物に二重国籍証明を届けさせ受領サインを貰うと共に、その時の様子を報告させればいいとアルフレッドは考えたのだった。




