ファルコール手前の町3
オランデール伯爵邸を出発して数日、サブリナの目の下のクマは随分改善した。斜度はファルコールへ向かえば向かう程きつくなる。その分、立派な馬車とはいえほとんどを伯爵邸で過ごして来たサブリナの体力を程よく奪ったようで、どの宿でも早めの就寝となったのが良かったのだろう。
ツェルカが初日の夜に予想したように、クマの改善はサブリナの睡眠時間が足りないことが原因の一つだったようだ。でも、それではあまりにも大雑把。サブリナが必要としている睡眠時間が長過ぎるのに対して短いのか、そもそも伯爵家で与えられていた睡眠時間が短いのかは分からない。
どうやって掴んできたのかは知らないがキャストール侯爵からの情報で、伯爵家が侍女を一人付けようとしたところをみると後者の可能性の方が高そうだが。あの化粧も、サブリナには顔を華やかに見せる為のものだと言い聞かせていたようだが、実際には顔色を誤魔化すものだ。
サブリナが『顔を華やかに』という言葉を何度も繰り返すものだから、ツェルカはその必要はないとその度に伝えた。そうこうしているうちに分かったのは、サブリナの言う華やかな顔とは、伯爵家に相応しいという意味だった。子爵家出身のサブリナには分からないだろうからと、侍女達が伯爵家に馴染むよう行ってくれていたそうだ。あれを。
ツェルカには『なんだそれ』だったが、当のサブリナにしてみれば伯爵家で過ごす為に受け入れるべき大切なことだったのだろう。
とまあ、数日でクマとあの化粧の原因は分かった。しかし分からないのは、その原因に辿り着く理由。睡眠不足も華やかな顔であることも、その根底にどんな理由があるのか。
サブリナは貴族学院在学中に伯爵家のジャスティンに見初められた。それならばジャスティンはあの頃のサブリナを好ましく思ったはずだ。態々伯爵家仕様の化粧にする必要はないように思える。
そして、睡眠不足。これはツェルカにも理由を尋ね辛い。サブリナは結婚してから六年、未だ懐妊していない。そのことを悩んで伯爵家で睡眠不足になっているのか、その元をどうにかする為にジャスティンと夫婦として夜な夜な協力し合っているのか。
明日にはファルコールに到着する。今はただ全てを忘れて、今日も早めに就寝してもらいたいと思いながらツェルカはサブリナの美しい髪を梳き続けた。
ところが、あと少しで梳き終わる、というところでサブリナが鏡に映る自分に向かってぶつぶつ何か言い始めた。その声は次第にツェルカにも聞き取れるものに変わっていったのだった。
朝、投稿失敗を久し振りにしでかしておりました。ちゃんと確認しないと駄目ですねぇ。
そして、タイトルとネーミングセンスがないのはもうどうしようもないようです。このタイトルの使い回しと、名前がAとB…、大目に見てやって下さいませ。




