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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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「ナーサ、サブリナお姉様がファルコールにお越しになるわ。それも、あと少ししたら」

「まあ、予定よりも随分早くお越しになるんですね」


薫は早速ナーサにサブリナがやって来ることを伝え、部屋の準備を依頼した。


「子爵家のツェルカさんは、階段をあまり使わない部屋の方がいいわね。侯爵家の御者と護衛の部屋は、うん、どこでもいいわ。ナーサの都合で決めてちょうだい」

「はい」


一歩間違えれば幽霊屋敷になるところだったファルコールの館にまた新たな人達が加わる。何となく嬉しくて、楽しいと薫は思った。前世では母子家庭。母が働きに出ている間は、当然薫はアパートに一人。だから1DKの間取りの割には狭いと感じたことはなかった。実際には広くなどなかったというのに。

食事をするのも母と二人で、時には一人ぼっちということも。それがどうだろう、ここでは毎回楽しくみんなで食事が出来る。ただのキャロルとして過ごしているので、マナーも関係なく会話を楽しみながら。


みんなで食事…、とそこで、薫は新たな問題に気が付いた。


「ねえ、ナーサ、今のテーブルでもデズ達が加わると手狭よね。折角親方が来ているんですもの、キッチンと食堂も改築してもらいましょう」

「そうですね、でも、わたしやツェルカさんが食事時間をずらせば」

「それは駄目よ。ここでは家族全員で食事をすることになっているでしょ、だからね、こういうのはどうかしら?」


薫はどういうキッチンと食堂にしたいのか、下手ながら絵を描き始めた。オーブンや竈の位置を変えるのは難しいのでそのままにし、作業スペースを十分に取ることで今後人数が増えても料理がしやすいようにしたのだった。また、作業スペースのところにカウンターを設け、料理をそこから出せるようにし、その先に長いテーブルが繋がるようにしたのだった。


「こうすれば、料理が出し易くなるでしょ。お皿を片付けるのも楽になるし」

「いいですね、これは」

「ナーサも何かアイデアがあったら書き足して。改装中はホテルの食堂を使えばいいとして、キッチンは時間を決めて簡単なものを作るようにしましょう」

「あの、予算が掛かってしまうのですが…」

「なあに?」

「近くの部屋に、お菓子作り専用のキッチンを、その」

「良いわね、それ。お菓子でしか使わない材用もあるものね。いつも言うけど、お金は気にしないで。わたしは」

「知っています、キャロルがお金持ちなことは」

「でも、どれくらいか知らないでしょう。実は使い切れないんじゃないかと思っているわ。だから、今みたいにアイデアがあったら教えて」


前世では狭いアパートにしか暮らしたことがなかった薫。つい固定概念で、台所は一つと思いがち。しかしナーサが言うように、お菓子作り専用の部屋があってもいいだろう。


「そうだ、その部屋でパンも焼けるようにするのはどうかしら?今までのゲストも、それにみんなもここのパンは気に入ってくれているでしょう。もっと大きなオーブンを作ってもらって沢山焼きたいの。そうすれば、騎士宿舎にも届けられるじゃない」

「それは騎士のみなさんが喜びそう!」

「あ、でも駄目だわ。パンは沢山焼くけど、騎士宿舎へは持っていけない。だって、今、取引しているパン屋さんが困るもの」

「確かに、騎士宿舎は大口の納入先ですものね」


商売の邪魔をしてはいけない。薫がすべきことはキャストール侯爵領の為になることだ。

では、この館で使用している酵母菌でパン作りをパン職人に伝えればいいのではないだろうか。更に酵母菌の増やし方も教え、持ち帰ってもらえばいい。なかなか進まないバーデンバーデン計画をドイツ風パンから進めてみようと薫は思った。

しかし勝手に進めるとケビンとノーマンから注意を受けてしまう。この計画はパンとお菓子用のキッチンが出来上がり、二人の機嫌がとても良いときを見計らって持ち掛けてみればいいだろう。その前に、菌製造機で、絶対に腐らない美味しいパン種になる酵母菌を出しておかなくてはと、薫は頭の中でこれからのことを思い描いたのだった。

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