王宮では27
アルフレッドとジョイスの話し合いに、そう長い時間は必要なかった。それもそのはず、パートリッジ公爵からの要望は予想外の難しいことではあるが、アルフレッドの予想通り絶対に不可能というものではなかったからだ。
「スカーレットと侯爵の二重国籍は直ぐにでも発給出来るように手を回しておく。その報告は直ぐにパートリッジ公爵へ伝えるようにしよう。恐らくスカーレットは本気でその権利を行使する気はないだろう、こちらが何かしない限りは」
「どうしてそう思えるんだ、アル?」
「スカーレットがキャストール侯爵家同様この国も大切に思っているからだ。長い付き合いだから、分かる。スカーレットは何かあった時用の切り札として持っておきたいだけだ」
ジョイスはアルフレッドの推測が正しいことに、再び腹立たしさを覚えた。二人の間にあった長い時間は、ただ流れていたのではなく二人が交流を確かにしていたと推測の正しさが物語っているからだ。事実同じくらいの長い時間を、ジョイスもスカーレットとアルフレッドとは立場が違えど過ごしてきた。幼い時に限れば、アルフレッドよりも共に過ごした時間は長い筈だ。
それなのに、好きになってはいけないからと嫌いになったせいで交流というよりは必要な言葉を交わす程度の関係しか築いてこなかったのだ。
スカーレットを嫌いになったのは、ジョイスの弱さ。好きになることは出来なくても、守り支えることは出来た筈だというのに。そんなジョイスに神はチャンスを与えてくれた。ファルコールで足止めを食うことで、スカーレットと向かい合い、ジョイスの中に眠り続けた本心を呼び起こしてくれたのだ。
離れていても、スカーレットの為に出来ることはある。アルフレッドの話を聞きながら、二重国籍は直ぐにでも法的効力を持つ書面でスカーレットの手元に届くとジョイスは確信した。
後はもう一つ。スカーレットが大切に思うこの国の為に、パートリッジ公爵から使節団を送ってもらうように手を尽くさなくては。パートリッジ公爵からの要望のままでは難しいだろうが、既に事前に了承を得た条件があれば勝算はある。
「ファルコールでの長期滞在と労働許可だが、これは二重国籍程簡単ではないな」
「パートリッジ公爵の要望は全てキャストール侯爵令嬢に絡むもの。そこだけで収まるということで通すしかないと思う。それに滞在者は金を落とす。労働者は賃金を得るだろうが、労力で貢献することになる。また、滞在者達の管理はケレット辺境伯領の騎士達がファルコールに居るのだから彼等に行ってもらえばいいだろう。勿論、滞在者の記録はこちらで作り、それを騎士達に渡す流れを作るが」
「そうだな。滞在者の記録を作るのがこちらならば、押さえるべきところは押さえておけるし。それで、その業務は」
「キャリントン侯爵の腹心と言われるマーカム子爵に任せるのがいいかと」
「確かに。キャストール侯爵領のことなだけに、キャリントン侯爵の息が掛かった者に管理させるのはなかなか良い案だ」「有能なマーカム子爵だから、今までプレストン子爵が代官所と兼任していた国境検問所の仕事だけでは物足りないだろう」
「そうだな、余計なことに割く時間がないようそこもみてもらえばいい」
どれくらいの業務が増えるかは未知数。隣国からファルコールにやって来る人数など読めないのだから。しかしこれは業務内容からしても、スカーレットへちょっかいを掛ける時間を潰す為にもデズモンド・マーカムが最適だとジョイスはパートリッジ公爵に話した時から考えていた。
『余計なことに割く時間』、アルフレッドもどうやら同じ考えのようだとジョイスは理解したのだった。




