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フレンチトーストはみんなの心を捉えたようで、様々な意見が出た。一番簡単そうなものはキースの彼女、サラを早々にファルコールへ招くことだった。
「でも、部屋がまだ…」
「キャロル、好き合う者同士は、部屋がどうこうよりも傍に居ることが重要だと思うよ」
「そうなの、キースさん?」
胸板の厚いキースが耳を赤くしながらコクリと頷いた。何という可愛さだろうか。薫はこれが俗にいう『ずきゅん』ではないかと胸に手を当てたくなった。当のキースは隣に座っていた同僚のカークスに肘で突かれているが。
しかし、簡単そうに見えて、これには問題があった。隣の領とはいえ、サラは外国人。長期滞在となると保証人が必要になる。
そこで薫はどうせならと、カークス達にも呼び寄せたい恋人はいないかズバッと尋ねたのだった。保証人はキャストール侯爵にお願いするしかないのだ、頼むなら同時に行った方が良いだろう。
「残念ながら」
二人からの返事は正しく残念なものだった。
「そっか、長期滞在者として招くなら、ケレット辺境伯領の鍛冶職人はどうかな?」
「スコットさん、それはいいですね」
「どういうこと?」
「騎士が多いこともあって、ケレット辺境伯領は鍛冶屋が多いんだ。でも、若手はなかなか剣を打つ仕事が回ってこないから、野営用の大鍋も打っているし色々している。その技術をキャロルの料理道具に生かしてもらうのはどう?」
確かにそれは有り難いと薫は思った。前回親方達を招いた時も人数分の料理を捌くのに苦労したが、大きな鉄板を作ってもらえればバーベキューも可能になる。肉には下味を付け、豊富なキノコ類と一緒に鉄板で焼いたら、それだけでご馳走のように思えるはずだ。
けれど、ここでも問題が。サラと違って、鍛冶職人となると仕事をここで行うことになってしまう。国のルールでは外国人を労働者として雇うときには、支払った給料と同額を領主へ納めなくてはならないのだ。
「お金は心配いらないわ。何度も言っているけど、わたしの中に眠るもう一人のわたしはとんでもないお金持ちだから」
毎度のことだが、この台詞を聞いてしまった周りの者達は微妙な笑みを浮かべるしかない。しかし、この日はナーサだけはにっこり笑い『その分、美味しい料理を沢山つくりましょう』と言った。
その後、薫はデズモンドとの取引内容を全員に話した。
「それで子爵が隣の騎士宿舎へ移動してきたわけだ。キャロルさんは随分策士なんですね」
「ありがとう、キースさん。キャリントン侯爵からわたしを飼いならすように言われたデズが実は裏でわたしと結託しているなんて面白いでしょ。あとね、デズは女性と仲良くなるのも得意だけれど、農業指導はもっと得意なのよ。週に一度、食事を招待する見返りはそれなの。いつか、ここで新しい調味料や食材を作るわ。温泉施設や医療補助係養成施設、あとね、馬用施設も作りたくて…。色々あるんだけど、みんなと相談して良いものにしていきたいの。協力してくれる?」
その言葉に全員大きく頷いてくれたのだった。薫は自然と『大変だけど、またエッグブレッドを作るわ』とほほ笑んだ。
因みにフレンチトーストを薫はエッグブレッドという名前にした。




