隣国パートリッジ公爵家1
パートリッジ公爵邸、三度目のこの日は二度目の前回よりは待たされる時間が少ないとジョイスは感じた。公爵は今回でジョイスの訪問を終わらせようとしているのだろう。この非公式なジョイスの訪問という前菜は三皿で十分ということだ。
前菜一皿目は門前払い。二皿目は謎かけのような言葉。そして、三皿目はハーヴァンから事前に知らされた『二重国籍』を含め、どのような皿に仕上げてくるのか。是非とも食べやすい上に消化し易いものにして欲しいとジョイスは思った。しかしながら、公爵がジョイスの望むような料理を出す事は有り得ない。キャロルがハーヴァンに届けさせたあのパウンドケーキのように、もっと食べたいと思うようなものは。
パーラーメイド達がジョイスに茶を淹れてから数分、今度は執事が現れ間も無く公爵がやって来ると伝えてくれた。さて、どんな料理が出されるのか。ジョイスは立場上、出されたものには必ず手を付けなくてはいけない。それが今回の役目。
どんな要望であれ、国に持ち帰る姿勢を見せないことには始まらないのだ。
ジョイスがいつもの無表情の下で様々なことを考えるなか、公爵は現れた。そして儀礼的な挨拶を交わしたのだった。
「さて、挨拶はこれくらいにして、本題へ移ろうとしようじゃないか。何度も往復するのは君も飽きただろう?」
「いえ、そんなことはございません。民の暮らしぶりや、町の様子など見るべきものは多くありますから」
「何の為に?」
普通に聞き流せば、模範解答のようなジョイスの言葉。公爵がそれに対し質問してきたのは、ジョイスの今後を知るからだろう。
「先ずは己の為です。知識として蓄えられます。そして、もう一つ、友人達の為です。いつか友人達が必要としていることの参考事例として伝えられる可能性があります。何がいつどこでヒントになるか分かりませんから」
「友人の為か。君に友人と思ってもらえる人間は得だな。友人だと見做されないと、随分大変な思いをするようだが」
「…申し訳ございません」
「何故、謝る?我々はただ話をしているだけだろう」
「いえ、この場を借りてこれだけは伝えさせて下さい。わたしは自らの愚かな行いで大切な友人を酷く傷付けてしまいました。謝罪すらまともに受け入れてもらえないような。本日、閣下が話す内容の一部を実は既に存じ上げております。わたしは閣下の話を国へ持ち帰るだけの立場ですが、その一部、友人に関わる部分は必ず実現させるつもりです。何としても、彼女の為に」
「君も感情的になるんだな。そこは気に入ったよ。では、我々がそちらの国へ赴けるよう努力をしてもらおうとしよう」
公爵の三皿目はキャロルのパウンドケーキのように甘いものではなかった。しかも二重国籍は個人に関すること。国となると更なる要望があるのは当然のことだった。例えるならば、二重国籍は三皿目の料理に掛かったソース程度だったのだ。




