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逆ハーレム、仕事ばかりだった薫でもその言葉の存在は知っていた。そして前世の薫みたいなタイプがどうやったらそれを体験出来るかも。
簡単なことだ。ホストクラブへ行き、清水の舞台から飛び降りる覚悟で数字の後ろにゼロが六個付く高級ボトルを何本も注文すればいい。そうすれば、かっこ良くて若いお兄さん達が回りで楽しそうに騒ぎ持ち上げてくれることだろう。
金で楽しい時間を買うのだ。それが前世で薫が思い浮かべることが出来た具体的な逆ハーレム。
しかし、それはいつまでも続かない。金の切れ目が縁の切れ目、ボトルが空になれば、空しい現実に戻るだけ。尽きることのない資金がなければ、逆ハーレムは消えて行く。結局のところ、前世の薫には全く縁のない世界だった。
でも、今が正しく逆ハーレムではないかと薫は思った。
ケビンとノーマン、スコット、ケレット辺境伯領の騎士三人、更にデズモンドとリアム。それに対し、女性は薫とナーサだけ。
まあ、キースには彼女はいるが、薫にしてみれば男性にこんなに囲まれて食事をすること自体が逆ハーレムのように思えてならない。
しかも、ケビンとノーマンは侯爵が付けてくれたとしても他の男性陣は薫が招いたに等しい。ハーレムに招き入れるように。前世での年齢が故に、まるで若くてかっこいい子達を自分の傍に侍らせているようだ。しかも、それぞれタイプが違う子を。胸板が厚いタイプ、知的な貴公子タイプ、更に顔面偏差値がどんな超難関大学も簡単に合格してしまうくらい高いタイプと実に様々。
デズモンドとリアムは週に一回の特別メンバー、ホストクラブで例えるとさながらヘルプスタッフといったところだろうか。特にデズモンドはアフターで色々サービスしてくれそうな…。
「どうかした、キャロル?」
「ううん、何でもないわ、スコット。それより、今日の料理は口に合っているかしら?」
「ああ、とても美味しいよ」
「デズとリアムは?」
「週に一度だけなのが残念なくらい美味しいよ」
スコットに言葉を掛けられ、そうだ、これは違う、逆ハーレムではないと薫は浮かんでいた考え、特にデズモンドの件を頭の中から追いやった。薫こそ新たな参加者に馴染んでもらうため、女主人として会話の橋渡しを行わなくてはならない立場だというのに。第一、このもてなしの料理を作ったのも薫とナーサ。つい素敵な男性に囲まれたことで舞い上がってしまったようだ。
「そうだ、忘れないうちに。デズにはファルコールで広めたい農作物の試験栽培をしてもらうことになっているの。場所はわたしも観察出来るように、この館の敷地内に作るわ。館の改築もあるから、当分慌ただしいと思うけど、ご免なさいね」
その発言に、既にデズモンドが試験栽培を館の敷地内で行うことを知っていたケビンとノーマン以外は『どうしてよりによってこの男が』と思ったのは言うまでもない。
そして騎士三人は視線で会話をした。こんなに良くしてもらっているキャストール侯爵令嬢が困ったことにならないよう、良く目を光らせなければならないと。話には聞いていたが、デズモンドが如何に危険か三人は食事を共にするだけで良く分かってしまったのだから。
参加者それぞれが様々なことを感じたデズモンドとリアムの歓迎食事会。その夜、薫の元に久し振りにイービルとスカーレットが現れたのだった。




