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デズモンドとリアムが騎士宿舎にやって来たのは、薫が親方と打ち合わせを行った二日後だった。国境検問所で騎士達に空き部屋があるか確認の上、移動日を連絡するあたりやっぱりデズモンドは侮れない。滞在先の契約も満了し、荷を運ぶ手配もしてしまったと記してあれば、薫とて受け入れざるを得ない。当然のことながら、少し豪華な部屋はまだ出来上がっていないどころか、手も付けられていないというのに。
「構わないよ、どの部屋でも。俺としては、美しい花を毎日愛でることが出来る部屋以外は大差ないかな。それともそんなに気遣ってくれるなら、朝目覚めて一番に美しい花が視界に入るようにしてくれる?」
「デズ達の部屋が整うまで、花瓶を用意すればいいということかしら」
色気が漏れているデズモンドの言葉に精一杯の対抗姿勢を見せながら薫は一先ず空いている部屋へ二人を案内した。
「改装の職人さん達には二人の部屋から取り掛かってもらうようお願いしておくわ。それまでは申し訳ないけれど、あまり荷物は広げないでね」
「分かってる。それに、俺達、荷物はそんなにないんだ。落ち着いてから服とかの荷物は届けてもらうよう手配すればいいと思っていたから」
「あら、それは好都合ね。直ぐにでもファルコールの騎士宿舎宛に手配してもらえば、デズがここに住み始めた証明になるわ」
「君らしい意見だ」
「ありがとう」
「でも、俺はこれからもっと違うキャロルを知りたいかな。荷物を手配する序にここまでしてくれるキャロルに贈り物を用意したいから、好きなものを教えて」
「別にいいわよ。わたしにも利があることだから」
「駄目だよ。君の、否、療養中の高貴なお嬢様の好きなものを知っている俺、が居た方が更に良い筈だ」
デズモンドは侮れないというより策士だと薫は思った。キャロルではなくスカーレットへの贈り物となれば、それ相応の物が必要になる。黄緑色の普段使いのリボンどころではなく、髪飾りだとしても宝石が付いていそうなものが。
しかもそんなものを贈られたら、どこまで本気か分からないデズモンドからでも中身がアラフォーの薫ですら舞い上がってしまいそうだ。
うっかりのぼせ上らない為にも高価なものは断りたいところだが、デズモンドの意見も一理ある。そこで薫はスカーレットの記憶から、好んで身に着けていた宝飾店のとあるシリーズの名前をデズモンドに告げたのだった。
「へえ、夜空の星シリーズかぁ。それは俺の星に贈らなければいけない一品だな。それで、そのシリーズの何がいい?」
「スカーレットは濃紺のベルベットにレモンシトリンが縫い付けられたリボンをコレクションしているの」
「チョーカーは無い?俺としては直接肌、しかも首に巻き付くチョーカーを贈りたいんだけど」
「あるわ。でも、リボンの方が宝飾店も勘ぐってくれると思う。発注者がファルコールにいるあなたならば、誰に贈るのかをね」
「もう、何でも君は話を色気のないほうへ持っていくなぁ。チョーカーだったら首元に俺が巻いてあげられるのに。でも、朝一番に髪を束ねてリボンを結ぶのもいいか」
「駄目よ。夜空の星なんだから、朝は。それより、デズ、もう来ちゃったものはしょうがないから、明日歓迎の食事会をしましょう。ハーヴァンは居なくなってしまったけど、新たに四人加わったから紹介もしたいし」
「四人も?まさかとは思うけど、全員男なわけはないよね」
薫は『凄い、デズ。良く分かったわね』とにっこり微笑んだのだった。




