王都リプセット公爵家7
王都に入る前に通過する最後の町で、ハーヴァンはリッジウェイ子爵家の家紋付き馬車に乗り換えた。使用人達が乗る馬車はそのままリッジウェイ子爵家へ戻る為だ。
従者としてジョイスに付き添っている時以外のハーヴァンは通常通用門を使う。しかし、リッジウェイ子爵家の家紋付き馬車ということで、この日は正門へと着けてもらった。スカーレットからの手紙で話は通っていたようで、正門警備の門番達はリッジウェイ子爵家の家紋を確認すると直ぐに中へ通してくれたのだった。
「ここから正面入り口まで距離があるので、申し訳ございませんがそこまで馬車を走らせていただけますか」
丁寧な物言いで、門番の一人が前子爵に願い出た。時間は掛かるが歩けない距離ではないし、もっと言ってしまうと移動用の馬も見えているというのにだ。
それが意味するのは公爵が邸の正面玄関までやって来いということ。前子爵は『公爵邸は広いですから、勿論送り届けさせていただきます』と返し御者へ更に進むよう指示をしたのだった。
正面玄関到着後、待ち受けていたのは公爵家の筆頭執事。ハーヴァンを送り届けてくれたことに感謝を伝えると、体を伸ばす為にもサロンで休憩を取って欲しいと申し出た。
「ハーヴァン、今日はもう部屋へ戻っていいとのことだ」
そして、その場にハーヴァンは不要ということも伝えたのだった。
前リッジウェイ子爵夫妻がサロンで待つこと十数分。リプセット公爵が現れた。
「帰途だというのに、呼び立てて済まない。しかし、早めに伝えておきたいことがある」
リプセット公爵の話はスカーレットが話し相手を探しているというものだった。
「お二人は既に本人から聞いているだろう」
「はい」
「スカーレットは社交シーズンの終わりを考えていたようだが、クライドが先走って既に種を撒いてしまったのだ。その種を様々な鳥がほじくり返した。食べられる鳥は一羽しかいないというのに。しかしその鳥より先に食らおうとした多くの鳥はあたってしまった、面白いくらいにな」
「クライドも娘のこととなると落ち着きを失くしますから」
「それはお二人もだろう。夫人、スカーレットからは手紙を出して欲しいと言われたと思うが、出来れば早々にオランデール伯爵家を訪問して欲しい。今はその方が効果的だし、話が早い」
公爵は夫人にオランデール伯爵家を訪問して欲しいと言った理由を説明しだした。加えて、今、この時間が何を意味するのかも。
「通りがかりの誰かは見ている。リッジウェイ子爵家の馬車がここにやって来たことは。それに、それなりの滞在時間だったことも。夫人がオランデール伯爵家訪問伺いをすれば、直ぐに返事はやって来るだろう」
夫妻も公爵もスカーレットはどこまでを読んで、ハーヴァンをファルコールから送ってもらうよう願い出たのだろうかと考えたのだった。
当の薫は『物の序で』でお願いしただけだったのだが。
ジョイスとハーヴァンがファルコールの館にやって来たのも、サブリナの両親である前リッジウェイ子爵夫妻が二組目のゲストだったのも、本当に偶然。それが、上手い具合に絡みあい、そこに薫のお節介というエッセンスが加わり今の状況を作っているだけだった。




