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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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四泊目、即ち翌日は王都ともなるとハーヴァンは他の使用人達とも随分打ち解けた。護衛の者とは馬上でのバランスの取り方、侍女達とは茶葉のブレンド方法と話が尽きることはなかった。

しかし使用人達が最も興味を示したのは、一泊目のキノコペーストだった。


「ファルコールの館でいただいたのはもっとクリーミーだった気がするわ」

「はい、初日のキノコペーストは館で食べたものとは違うものです。今の時期でも数日保存が出来るようオイルベースで」

「あら、そうだったのね」

「クリーミータイプは、ファルコールだけで食べられる味です」


ハーヴァンはこういうことかと納得した。キャロルは乾燥させたキノコ類の販路を行く行くは王都で持ちたいと考えている。ファルコールの館で提供することはその為には良い宣伝だ。キャストール侯爵家によって整備された街道を使えば、流通面でも大きな問題はない。今回ハーヴァンが持たされたキノコペーストも似たようなものなら、それぞれの貴族家の味として直ぐに作られるようになるだろう。しかし、ファルコールの館で提供されたものはそうはいかない。キャロルの話によると、あのクリーミーなタイプは傷みやすいので王都へ出荷するならば秋の終わりから冬ではないかということだった。それに、キノコ類もファルコールでは乾燥したものではなく生だ。オリジナルが食べたければ、ファルコールへ行くしかない。


なかなか上手い商売だとハーヴァンは思った。似たものはいくらでも作られるだろうが、オリジナルはファルコールにしかない。しかも、提供される場所はファルコールのキャストール侯爵が所有する館だけ。そこへ行くには紹介状が必要とは。

使用人達にも振舞うことで、他の家の使用人にも確実にキノコペースト、しかもオリジナルキノコペーストの話は簡単に広まって行く。


見事な手腕だ。ハーヴァンはスカーレットがそのままアルフレッドの妃になっていたらどういう政策を打ち出したのだろうかと考えた。もう、起こり得ない未来だが。そして、スカーレットは本当にこの国の王子の婚約者だったと理解した。恋だ愛だではない。共に国の未来を背負う為に育てられたのだ。


前リッジウェイ子爵夫人にはジョイスにも『彼女』に協力するように言われたとハーヴァンは伝えたが事実は違う。ジョイスの言葉は、労働で奉仕をするという協力のこと。ジョイスの仕える高貴な身分の方から何らかの報告を求められた時はハーヴァンの判断に委ねられている。


(俺が協力した『彼女』はキャロル。侯爵令嬢はあんな別れの挨拶はしない。それにいつか馬用施設で協力したいのもキャロルだ。籠っている侯爵令嬢とは顔すら合わせていないじゃないか)


起こり得ない未来が覆らないよう嘘を吐く必要はない。ハーヴァンは約一週間、キャロル達と共に労働をしていたのだ。ホテルで働く侯爵令嬢など居る筈がない。

王都に到着後、ジョイスが隣国から戻れば共に王宮へ向かうこともあるだろう。そこで何を聞かれようとハーヴァンはこの事実さえあれば平静でいられると思ったのだった。

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