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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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初めて話す相手に個人としてのジョイスが信用を得る、それは不可能に近い。

今までのジョイスにはリプセット公爵家の三男で王子の側近という『立場』が付いて回っていたから初対面の相手であろうとそれなりの信用を得ることが出来た。しかもリプセットという家名には他者へ信用を与えるだけではなく、様々な下心を刺激する響きもあったのだ。


しかし、デズモンドにはジョイスという名前だけでは何の旨味もない。信用する根拠もなければ、その必要もなくて当然だ。寧ろ、過去と今の立場からスカーレットに対し更なる害を及ぼしかねない人物だと思われてもおかしくない。


デズモンドから発せられる見えない毒がジョイスの呼吸を乱そうとする。公爵家、そして王宮で側近に必要な多種多様な教育をジョイスは受けてきた。それでも、あのキャリントン侯爵という人物の下実践を積んできたデズモンドとは悲しいかな表には出せない部分での経験が違い過ぎる。


汚れ仕事とは無縁に見えるきらきらしいデズモンド。けれど芯にある毒、そして本当は何も見ないことも出来るこの瞳からジョイスは理解した、デズモンドはそれなりの数の汚れ役も引き受けて生きてきたと。だからこそのキャリントン侯爵の腹心というところだろう。

仕事内容に違いはあれど、ジョイスもこうしてまたアルフレッドからの密命を受け動いている。単純に比べることは出来ない、しかしデズモンドもまたジョイスと同じようなものだ。


だが、いくら同じようなものだと言ってもここでの会話は友人同士が、もう一人の友人を気遣い行っていることではない。それにデズモンドが指摘してくれていたではないか『共通の目的に嘘偽りがなければ、そこは同じ』と。なにもこれはジョイスだけに言えることではない。デズモンドに嘘偽りがある可能性だってあるのだ。正しく今この瞬間にも双方が腹を探り合っているということだ。しかもジョイスの時間は限られているというのに。


ジョイスにはどうしてファルコールで常に十分な時間がないのか。策略、それとも試練、だとすれば誰からの。

いずれにせよ、ジョイスに出来ることは限られている。腹を割り続けることだ。


「信じてもらうしかない。俺の従者がキャロルの傍にいることはもう知っているだろ。だから子爵にキャロルがケレット辺境伯へ繋がる道があることを教えたことは報告を受けた。しかしあの道を通って隣国へ行けたとしても、本国から帰還命令が出ればそれまで」

「そうですね、国境を管理するわたしが何らかの報告をすれば、国はそれに見合う方針を決めるでしょう」

「子爵と彼女は互いに綱を引き合い、バランスを取る関係、今のところは。でも、彼女は綱を自分ではなく、別の方法で引く方法を既に準備し始めている」

「そう断言するということは、ジョイス様は別の方法をご存知なのですね」

「信じてもらえるならば、その対価に彼女の方法を知ってもらいたい。本当は数日後に俺が知る情報なんだが。そして俺は国に不利益になろうと彼女の為にその方法を叶える」

「分かった。俺も彼女のことは色々知りたい。不本意だけれど、信用するしかなさそうだ。彼女ならば何か手を打っていて然りだからな。信用の証に重要なことを伝えよう。この数日で俺は彼女に心を奪われた」


デズモンドの言葉こそ信用し辛いとジョイスは思った。女性に本気になどならないデズモンドが、何歳も年下のキャロルに心を奪われるなど。


「個人としての俺は、彼女に忠誠を捧げるつもりだ。今後身軽な立場になったら直ぐに実行するだろう。誰かに奪われるのではなく、自らの意思で捧げる」

「捧げるのは忠誠だけ?」


実に気に食わない返しだが、ジョイスはデズモンドと信頼関係を築ける人間になることを優先したのだった。

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