国内某所とある修道院5
「ねぇ、お姉さん、綺麗だね。どうしてここに居るの?綺麗な女の人は楽しいところへ行けるのに」
「それより、ここでは盗みをしなくても本当にご飯を食べていいの?それに誰も他の人のご飯を盗らないけど…」
未だ十三歳の上、どうやらほとんど教育を受けてこなかった二人にはこの修道院という場所が良く分からないようだった。しかも、たまたま朝食で正面に座ったシシリアに突拍子もないことを言い出す始末。
内容が内容なだけに、話し掛けられたもののシシリアはどう返事をすれば良いのか言葉に詰まってしまった。そこへ二人の世話役の修道女が助け舟を出してくれたのだった。
「ニーナ、カレン、こちらはシシリア。少しずつこれから皆さんの名前を憶えていきましょう。そしてもう盗まなくていいのよ。これからは盗むことは必要ない。盗まずに食事をしましょう。そうね、食事の時には感謝をしながら」
「感謝?」
「そう、心の中でありがとうと言うことよ」
「分かった。誰もこのご飯を盗まないことにありがとうをすればいいんだね」
「ふふ、与えてもらったことにありがとうをするの」
「与えてもらう?」
「あなた達と一緒にいた他の子達もみんなご飯を盗まず食べられるようになったから安心しなさい。与えてもらえるようになったのよ」
「良く分からないけど、ありがとうをするよ」
短い会話だがシシリアは理解した。二人の少女、ニーナとカレンは大人達に盗むことで食事をさせてもらっていたのだ。恐らく、他にも子供達が居て、それぞれ修道院へ送られたのだろう。たまたま二人を受け入れたのがこの修道院だったということだ。
食事をする為に、盗むことだけを教えられ育った二人。その食事も満足いくものでなかったからこんなに小さいのだろう。だから、一緒にいた子供達なのに、その中でも食事を盗り合った。他の子供よりも綺麗な顔立ちの子は、盗みよりもそういう場へ売られたのか自ら飛び込んだのか。幸せとは言えない場所で育ち、彼女達は生きる為に盗み続けた。
では、幸せな環境で生まれ育ち、教育を受けてきたシシリアがどうして彼女達と同じ場所にいるのだろうか。シシリアはそう思わずにはいられなかった。そして答えを知っている。シシリアもまた盗みをしたのだ。スカーレットから婚約者のアルフレッドを。ただ彼女達と大きく違うのは、何も知らず生きる為に行ったのではないということ。
最初はシシリアの思い上がりだったのだろう。アルフレッドが優しさを欲しているのではないかと考えたことは。けれど当時のシシリアは、本当にそう考えてしまったのだ。しかも偶然までシシリアを後押ししてくれたことで、自分の考えが正しいとまで思ってしまった。
あの頃、シシリアは何故かアルフレッドと顔を合わせる機会が増えていった。加えて、言葉を交わす出来事にも恵まれたのだ。まるで、偶然という何かが、シシリアの優しさを示せと言わんばかりに。
お陰でアルフレッドと語り合い笑みを浮かべてもらうようになるまでの時間を、シシリアは然程必要としなかった。一介の子爵令嬢に過ぎないシシリアなのに、世界が自分中心に回っているのではないかと錯覚を起こす程思い描いたようにことが進んでいったのだ。




