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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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薫は早速効果的なプレゼンをすべく、頭の中で要点を纏めた。しかしここは薫の部屋だ、プレゼンと言っても効果的な装置など何もない。ただ言葉で伝えるだけ。それにイービルは商談の相手でもなければ、使えない前世の会社の上司達でもない。それ以前に人でもないだろう。何をどうアピールするのが良いのか…。


しかし次の瞬間、薫は効果的なモノに気付いた。イービルへは先ずは言葉で伝え、上手く行かなかったときには申し訳ないが利用させてもらうしかない。


「イービル、あのね、温泉はこの地に住む人達の衛生と健康増進に役立つわ。でも、温度の好みは人それぞれ。いくら設備があっても好みが合わなくて利用されなかったら意味がないと思う。だから、温度を三段階にしてもらおうと思ったの。山が噴火しないようにするついでだもの、一つの願いに含まれるわよね」


話を聞くイービルの表情は変わらない。しかし、薫はこの温泉が今後どのようにファルコールの人達に恩恵をもたらすか、またどのように利用されていくのかを力強く話したのだった。

そしてご清聴ありがとうございました、と言う代わりに薫はイービルに笑顔を見せた。イービルが大切にしているスカーレットと同じ顔で。

けれど効果はない。イービルが薫に向ける視線には呆れが混じっているようにも思える。その表情はYESなのかNOなのか。


薫が考え倦む中、『イービル様、お願いします』とスカーレットの声が部屋に響いた。いざとなったら助けてもらおうと思っていたスカーレットが、お願いする前に助け舟を出してくれたのだ。

その瞬間イービルは直ぐに甘い視線で応えて『分かった』とスカーレットに伝えた。色々説明した薫には内容を理解したとも何とも言っていないのに。しかもスカーレットへ向ける表情は先程とは全く違う。同じ顔なのに、あまりの対応の違いに薫は呆れを通り越して、愛には敵わないと思うしかなかった。


しかし、イービルは薫の説明を理解していた。

『明日には全て希望通りだ。温泉とやらは好きなように運用しろ。俺がするのは山が噴火しないように地熱を逃がすこと。そこにたまたま水路があり、それぞれ通過する時間の長さにより温度が分かれるだけだ。後は、どういう施設を作りスカーレットが大切にしてきた領民達へ還元するかは薫次第だ』

「ありがとう」


こういうお願いの仕方をすればいいのかと薫が学んだ瞬間だった。これでお年寄りに動物の傷に効く温かい池の伝承がないか調べなくて済むのもありがたい。


『イービル様、わたくしからもお礼を伝えさせて下さい。本当にありがとうございます』

『辛いスカーレットを助けることが出来なかった罪滅ぼしだ』

『いいえ、あなたはいつもわたくしに寄り添って下さいました』

見つめ合う二人は、薫の存在などないかのよう。とても良い雰囲気を醸し出している。

相手すらいない薫には二人は目の毒だが、これではっきりした。イービルが薫の願いを叶えるのも、スカーレットの為だ。きっと7つという願いの数もスカーレットがもぎ取ってくれたに違いない。


創造主のシナリオが終わるその時まで、結果としてスカーレットを救えなかったイービル。新たな章が始まった今だからこそ、スカーレットを心から大切にしているのだろう。

そして目の前の毒達はこのままでは、薫の前で熱い口付けをしそうな勢いだ。流石にそれはご遠慮したいと、薫は態とらしくスカーレットに声を掛けた。


「ところで、スカーレットさん、次はどれくらいしたら現れるの?」

『イービル様、次はどうしましょう?』

『そうだな、では一月後でどうだ?』

「そうね、一月あればファルコールをもっと知れるし、今後のことも具体的に考えられるから丁度いいかも」

『残りの願いの数は無くならないから、また上手いこと考えるんだな』

「ありがとう、イービル」

『そういえば、薫さん、色々な提言をしてくれてありがとう。シシリアさんの後ろ盾や、婚約破棄時の違約金の在り方を考えてくれて。それに、ダニエルにも言葉を掛けてくれて嬉しかったわ』

「あなたの弟は正直上手くいくか分からないけど、必要なことは言ったつもりよ」

『十分よ。ありがとう』

「ところで、スカーレットさん、その、教えて欲しいことがあるの」

『わたくしが薫さんに教えることなんてあるかしら?』

「…その、恋はどうやってするものか教えて」

『…わたくしには今の恋しか経験がないから、これしか言えないけれど…。きっと築いていくものだわ』


そう言って、俯き加減になり頬を赤く染めるスカーレットは本当に美しかった。薫は気を利かせ、イービルにまた一月後に会いましょうと別れの挨拶をしたのだった。

ありがとうございました。次は王宮か侯爵家か本筋か…。自分で分岐させたのに、今更後悔しています。時系列を考えなくてはいけないことを忘れていました。

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