王都とある紳士クラブ2
紳士クラブに出入りしている者はカードゲームに酒、パイプタバコを楽しみにしているのではない。夫人や令嬢の茶会のように情報を集めることもあれば、時にビジネスの話もする。
リプセット公爵は公爵家の中では最も紳士クラブへやって来る人物として知られている。どちらかというと秘密主義ではないということを示したいのだろう。それも毎月決まった日にやってくるので、話したければその日を狙えと提示してくれてもいるのだ。
ところが、その日は滅多にお目に掛かることがないキャストール侯爵が紳士クラブに現れた。特にキャストール侯爵家のスカーレットがアルフレッドから婚約破棄を突き付けられて以降、仕事以外の場所で見掛けることがなくなっていた人物の登場に周囲は内心驚いた。しかし日が悪い。よりによってリプセット公爵がやって来る日に当たるとは。貴族なら、スカーレットにリプセット公爵家のジョイスが貴族学院でどのような態度を取ったかなど知らぬ者はいない。
二人を真正面から向き合わせてはいけない、誰もがそう思っていた。けれど、そういうこと程怖いくらいに起きてしまう。
あまりのタイミングの良さに中には侯爵が公爵へ何らかの嫌味を言いに来たのではないかと勘繰る者すらいた。その先を見越し、二人が険悪な雰囲気になった時に上手く間に入れば自分の能力を買われる可能性まで考える者も。ところが周囲の者が固唾をのむなか最初に交わされた言葉は意外にもごく普通のものだった。
「これは珍しい。侯爵が紳士クラブに来るとは」
「今日は多少気分が良いもので」
その上二人は話を続けながら、カードゲーム部屋へ向かうという。社交辞令的に酒を一杯酌み交わすのではなく、時間が掛かるカードゲームをしようと言っているのだ。既になされた立ち話ですら興味深いのに、これからどんな会話をするのか。居合わせた者達が興味を示すのは当然のことだった。
皆、気も漫ろに自然を装いながら二人のテーブルの近くで適当なゲームを始めだす。それこそが、この二人の本来の目的だとは知らずに。
侯爵も公爵も近くのテーブルにオランデール伯爵家次期当主の長男がいることを確認すると、デズモンド・マーカム以外の話を始めた。
「先程侯爵が言った懐かしい人物とは?」
「はい、娘が幼い時によく面倒を見てくれたご令嬢です。いえ違いますね、今は既にご夫人になられた。ですから、なかなか家を空けるわけにはいかないでしょう」
「確かにそれは難しいでしょうなぁ。しかし療養中のキャストール侯爵令嬢の為とあらば…。社交シーズンが終わればその家も考えてくれるのでは?わたしも当事者の息子の親です、勿論尽力させていただきます」
周囲の者達は、その人物が誰か心の中であたりを付け始める。それは当然のことだ、キャストール侯爵から求められる人物な上にリプセット公爵まで力を貸すと言っているのだ。出来れば事前にその人物とは知り合いになっておきたい。しかしオランデール伯爵家次期当主だけは違うことを考えていた。数日前にやって来た手紙の内容は本当のことなのだと。
スカーレットからの侯爵家の封蠟無しの手紙。いずれ届く前リッジウェイ子爵夫人からの手紙。そして、ここでの侯爵達の会話。更には社交シーズンが終わる前くらいにタイミング良く届く侯爵からの正式な依頼の手紙。
サブリナは間違いなく、社交シーズンの終わりにはファルコールへ向かうことになるだろう。




