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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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原因も理由も分からないまま、自分が死んだことをこの世界にやってきたことで知った薫。今までの健康診断結果から、長らく病を患っていたことはないので、考えられる死因は事故。流石にアラフォーで眠るように息を引き取る老衰だったとは思えない。しかし働きすぎの過労で、眠りながら死んだ可能性ならば考えられる。

いずれにせよ、その瞬間の記憶はなく気付いたらこの世界だった。痛みや苦しみを感じることなく、ここで新たな生を得たことはある意味ついていたのかもしれない。


入れ替わる時にスカーレットは薫に様々なことを託した。それは薫がどんな状況においても挫けない強い心を持つことが大きな理由だと思っていたが、案外それだけではないようだ。

自分では認めたくないが、薫はお節介おばちゃん気質だったりする。頼まれた以上に頑張ってしまうこともあれば、先へ先へと気を回すこともある。更には頼られると断りきれない。


前世の会社であそこまでいいように使われ続けてしまったのは、周囲が薫は最終的に絶対に引き受けると思っていたからだ。ヤツと切れなかったのもそのせい。若い子達に散々邪険にされても、仕事を滞らせるわけにはいかないと嫌な役目だろうとなんだろうと引き受けた。


そして思う。あんな夢を見たのも、それが原因ではないかと。

デズモンドの昏い表情やスコットの後悔を滲ませた表情。更にはジョイスの流せない涙。それが痛い程分かってしまうハーヴァンの葛藤。このファルコールではいつも楽しそうにしているのに、あんなにも涙を流したナーサ。見えてしまった以上分かる、彼等にはそういう側面があるということだ。

お節介おばちゃん気質の薫としては、彼等にあんな表情を浮かべさせないよう手を尽くしたい。



パウンドケーキを手にして、表情を変えることはなかったが心の底から喜んだジョイス。しかし、それがキャロルのジョイスへの心遣いではなく、薫のおばちゃん気質からだとは気付きようがない。


ハーヴァンが騎士宿舎に呼び出された時に、薫はジョイスの長い道のりを考え簡単に口にするものがあれば助かるだろうと思ったのだ。本当かどうかは知らないけれど、大阪のおばちゃんはマイビニール袋にマイオリジナルミックス飴ちゃんを入れ、無造作に一握りくれることがあると聞いた。薫もそれに真似て、残っていたパウンドケーキ数切れを一緒にしてハーヴァンに手渡しただけだった。疲れている時に甘いものを食べれば、表情が険しくなることは避けられるのではないかと思いながら。


薫が何の気なしに行っていることが、ジョイスの中に潜んでいる恋心を焚き付ける。勿論、残り物パウンドケーキがそれを後押しするとも気付いていなかった。


当の薫はというと、作るお菓子が茶色ばかりだということに気付いたくらい。みんなを楽しい気持ちにするには明るい色のお菓子も必要なのではないかと。

(そういえば、昔鳥取砂丘にあるお土産屋さんで梨のエキスを買ったわ、あれに牛乳をいれると固まったはず…。柿も牛乳で…。そっか、ジャムにしやすい果物ならばペクチンが)

勝手にジョイスの恋心を擽ったくせに、薫はペクチンに胸躍らせたのだった。

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