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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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ファルコールに到着してから数日、薫は精力的に館内や町を見て回った。勿論畜産研究所を見学することも忘れない。

牛が放牧されている様は、前世で見たどこかの牧場のようだった。例えるなら、熊本の阿蘇山や鳥取の大山あたりだろうか。


前世で薫は案外日本の様々な場所を訪れていた。それも一人で。何故なら、しなければならない出張を週末前に当て込み、週末は楽しむようにしていたからだ。朝から晩までこき使われる毎日。これくらいの楽しみがなければやってられなかったのだ。それに、薫の出張許可の権限者はヤツだった。ざるということだ。

出張がいつも週末前なのは敢えて見て見ぬ振りをしていたのか、本当に営業進捗具合を理解していなかったのかは分からないが。


交代でやってくる私兵の話では、山には湖があり危険なのでその周辺には行かないようにとのことだった。重い物を持ったり、走り回ったりしたことがないスカーレットの体ではそんなところまで行くことは出来ないと思いながらも、薫は有り難く周辺の地形情報を実際に見て回る私兵たちから得ていった。


話だけなので、湖が火口湖なのかカルデラ湖なのかは分からない。でもカルデラ湖で有名な阿蘇にも、火口湖のお釜で有名な蔵王にも付近には温泉がある。薫の行動範囲のどこかを掘って、温泉が出てきてくれれば最高なのだが。

しかし温泉掘削の技術がこの世界にあるとは到底思えない。ここは猿や鹿が傷を癒す為に浸かる不思議な温かい池のような伝承がないか、町のお年寄りに聞くほうが温泉に近付けそうだと思ってしまうのは仕方がないことなのだろう。



「キャロルさん、この辺でどうでしょうか?」

温泉に思いを馳せ遠い目を薫がしてしまっていたようで、ケビンとノーマンがボリュームを落とした声で質問してきた。

「ええっと、そうね、ここがいいわ」


この日は朝からケビンとノーマンが鶏舎を作ってくれることになっている。薫が大工を手配しなくてはいけないと思っていたところに、鶏舎くらいなら自分達が作ると作業を買って出てくれたのだ。


というのも、研究所にいたらいいなと思っていた鶏は残念ながら一羽もいなかった。侯爵の事前説明でも卵に関しては一言もなかったので予想はしていたが。


そこで薫がファルコール到着早々初めに購入したのは鶏。

これにはナーサが驚いた。王子の婚約者だった侯爵令嬢が移り住んで最初に欲したものが鶏だったのだから。

しかし、直ぐにナーサは唸った。流石何年も王子妃教育を受けたスカーレット、鶏の種類にも博識だったのだ。

前世の薫が卵と鶏肉好きだとは勿論知らないナーサは、王子妃教育の中に国民の食糧の為の講義あったのだと勝手に理解したのだった。畜産研究所に興味を持ったのも国民の食糧事情を改善する為、うちのお嬢様素晴らしい、と。


ナーサがどうして尊敬の眼差しでスカーレットを見ているのか分からないまま、薫は鶏の種類を確認した。種類毎に管理されている訳ではないので、鶏達は自然交配が進んでいる。ファルコールでは茶系の小ぶりなものと黒系の尾が長めのものが主流のようだ。白はいない。

薫が密かにいたらいいなと思っていたアローカナのような鶏もいなかった。因みにアローカナは、ほんのり緑色をした殻の卵を産む。お値段がとっても高い卵で、前世の薫の給料日後のお楽しみだった。あんな環境の職場で働いていた自分を労う為に、ご馳走TKGには清水の舞台から飛び降りる気持ちで購入したアローカナの卵を使っていたのだ。


鶏の交配方法が分からないから、薄緑の殻をもつ卵を食べられるかは未知数。でも、薫にとって重要なのは薄緑の殻ではなく、美味しい卵。前世のテレビで食肉生産者さんが、手間暇を掛け大切に育てた家畜の肉は美味しくなると言っていたような気がする。だから薫も美味しい卵を沢山産んでくれるよう鶏を大切に飼育しようと思ったのだ。


そして、飼育といえば、飼育小屋。

薫は早速護衛で付き添っていたケビンとノーマンに、鶏舎作りを依頼する為に大工を訪ねたいと伝えた。それを聞いた二人が、鶏舎くらいならば自分達にも作れると引き受けてくれ今に至ったというわけだ。


「ここなら、山からの冷たい風もよけられるでしょう」

「雛鳥に寒さが厳禁とかよく知っていたわね。ケビンもノーマンも何をしていたかお父様から聞いているけど、鶏舎まで作れるなんて、不思議だわ」

「鶏が増えて本格的なものが必要になったら大工へ相談しないといけませんけどね」

「ええ、そうね。来週からは内装職人さんと大工さんが来るから、仲良くなっておくに越したことはないわね」


この日、出来上がった鶏舎に十五羽の鶏がやって来た。

恋愛、遠い…。

まだ、お相手になるだろう人は一人も登場していません。決して鶏の話ではありません。

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