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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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王都キャストール侯爵家2

釈然としない。手紙から言い知れぬ矛盾を感じると、ダニエルは今までのことにも疑問を持ち始めた。見落としてはいけない何かがヴェールで覆われていたように思えてならなかったのだ。


そもそもアルフレッドとスカーレットの婚約は、王家と貴族院が中心となり決めたこと。当時のアルフレッドの年齢に見合う力ある貴族家の優秀な令嬢数名が王宮に集められ、立ち居振る舞いや学力等を総合的に判断し決められたのがスカーレットだった。

決してスカーレットがアルフレッドに一目惚れし、家の力で婚約者に納まったのではない。


寧ろ国が侯爵家の力を欲していたという方が正しい。

スカーレットとダニエルの亡き母は、隣国の公爵家の次女。母の姉は国境を接する辺境伯家に嫁いでいる。国境さえなければ、領地としては隣合わせなのだ。父と母の婚姻は、既に亡くなった祖父の代に平和的に国境を治める為に交わされた約束が実を結んだものだった。


お陰で父の代では、国境警備は国から派遣される兵ではなくそれぞれの私兵が形式的に行うようになり、時には合同訓練を行い強固な関係を築くに至った。安定した国境線は交易面でも良い結果をもたらす。多くの商人達は二国を行き来する際に通過する関所としてキャストール侯爵領、ファルコールを選ぶようになったのだ。


それらのことを王家としては一貴族のものではなく、国のものにしたかった。故に、スカーレットが王子の妃になるということは、政治的に重要な役割を持つはずだったのだ。王家と侯爵家の婚姻は恋だの愛だのの感情ではない、政治なのだ。


幼いスカーレットはそれを理解し、両国の未来の為に様々な勉強をしていたのをダニエルは覚えている。亡き母を想い、隣国との関係強化になりたいと。


王族と高位貴族の令嬢、そこにあるのは政治的側面が強い婚約。それを理解しているスカーレットが感情的にシシリアを攻撃したとは考えにくい。仮にしたとしても、それは国を思っての発言だろう。しかも、スカーレットなら相手のことを考え言葉を選んだに違いない。


どうして今ならそう思えるのか。ダニエルは何かが引っかかって仕方なかった。

そして今のダニエルなら、学院でシシリアへ取るべきだった行動が分かる。国のことを考えアルフレッドとスカーレットの婚約にある政治的重要性を友人としてシシリアに説くべきだったのだ。


学院でのことを一歩引いて見ると、異常なことが起きていたようにも思える。力あるキャストール侯爵家のスカーレットが何故あそこまで後ろ指をさされたのか。学院にはキャストール侯爵家との繋がりを重要視している貴族家も多い。その家々にとってスカーレットが王家と縁続きになることは良いこと尽くめだったはずなのに。それなのに、何故ダニエルを含めた学院生全員がスカーレットを排除し、シシリアを助けなければいけないと思ってしまったのか。


創造主が作成したシナリオがスカーレットの断罪までだと知る由もないダニエルには分からないことだらけだった。




その日の晩餐で、ダニエルは随分久し振りに父へスカーレットのことを尋ねた。

「姉上がファルコールへ向かったのはどうしてですか?父上がお決めになったのですか?」

「わたしが決めたのなら、スカーレットをこの家の中から出さなかったよ。その質問をしてくるということは、もう答えは分かっているのだろう。スカーレットは侍女と護衛の分も合わせて、キャストール侯爵家が発行出来る特別国境通過許可証も持っていった」


隣国の公爵家の娘を母親に持つスカーレットへの王子の仕打ち。隣国が難癖を付けてきてもおかしくない。国の為になるように教育を受け続けたスカーレットだ、自ら国境の町へ行き万が一に備えようと動いたのだとダニエルは理解した。父の言葉はダニエルの考えを裏付けてくれたのだった。


薫が畜産研究所と山があるから温泉が出るかもと思っただけでファルコールを選んだとは、侯爵もダニエルも勿論気付きようがない。そして薫もダニエルが王子から婚約破棄を突き付けられたというのに、それでも尚国の為にあろうとするスカーレットの気高さに感心しているとは夢にも思っていなかった。


たまたま選んだファルコールのお陰で薫扮するスカーレットの評価は嫌われていたダニエルからも上がったのだった。

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