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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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国内某所とある修道院3

初めてその四人に出くわしたのは、本当に偶然だった。

次の教室への近道をしようと渡り廊下から外れたところを歩いていた時にたまたま彼等に会ったのだ。厳密に言えば、会ったのではなく見掛けられたが正しいが。


シシリアはそこで木から落ちた卵が割れているのを見つけた。どうしたらいいのか立ち止まっていると、そこへ彼等がやって来て、その中のスカーレットが透き通るような声で呟いたのだ。


「カッコウね。これも自然の摂理。落ちて割れた卵もまた次の役割を担うから、部外者のわたくし達が手を出す必要はないわ」

「ああ、ごめんね。君が困っていそうだから彼女は説明しただけなんだ。カッコウという鳥は卵を他の鳥の巣に産み落とす。カッコウの卵がその鳥の卵より先に孵れば、その雛は生きて行く為に他の卵を巣から落とすんだ。でもね、産み落とされた鳥もカッコウの卵を見分けられれば、自分の卵を守る為にカッコウの卵を落とす。これは自然の中で起きる生存競争。そこに俺達の出る幕はないから、何もせずに立ち去るのが一番なんだよ」

スカーレットの呟きを解説してくれたのは人懐こそうなテレンスだった。


その時、シシリアはこんな所を通ってしまったからクラスの違うとんでもない人達に声を掛けられてしまったと内心困っていた。スカーレットの説明に礼を言い、立ち去るのが一番なのは分かっていても肝心な声が出て来ない。


「カトエーリテ子爵令嬢、発言を許す」

そこへ冷静な、しかし冷たさを感じる声でシシリアの家名を呼ぶ声があった。それは一学年上のジョイス。シシリアは理解した、彼らは貴族年鑑など当然のこととして頭に入っている。絵姿などから在学中の学生もほとんど把握しているのだろうと。

それもその筈、彼らの内の一人はアルフレッド王子。この貴族学院に今いる者達を側近の二人と婚約者のスカーレットは下調べしていて当たり前なのだ。


声は冷たいものの、ジョイスはシシリアへ助け舟を出してくれたのだろう。ただ礼を言い立ち去れと。この好機を逃せば、シシリアは動くことも出来ず無礼を働いた子爵令嬢になってしまうのだから。


シシリアは出来る限り美しく見えるよう『ご助言ありがとうございました』と礼をしたのだった。それはシシリアにとって満足いくもの、だからつい頭を上げた時に微笑んでしまった。そして目が合ったのだ、アルフレッドと。


「君の優しさが、生を得られなかった雛の弔いなるだろう」

アルフレッドの言葉にシシリアは再び頭を下げた。そして四人はそこから立ち去って行ったのだ。

しかし、シシリアは確かに聞いた、同じ声が『我々もまた政治という世界でカッコウにもなり、カッコウと対峙する者にもなる』と呟いたのを。

それは今後共に生きるスカーレットへの言葉と捉えるのが正しいのかもしれないが、何故かシシリアには自分に向けた言葉のように聞こえた。


シシリアとてたまたま足を止めただけ。しかし、アルフレッドにはシシリアが優しさから足を止めたように思えたのだろう。

共に居るスカーレットの言葉は正しいが、そこに優しさはなく淡々としたもの。最後の呟きはアルフレッドもまた重要な決断の時に優しく寄り添ってもらいたいという現れ、そしてそれをシシリアに求めたように思ってしまったのだった。


だが、これこそがシシリアの最初の間違いだと今なら分かる。

国王が重要な決断をする時に、不安だからと妃に優しく支えてもらうなどということは有り得ない。そんな不安な決断に一体どんな家臣がついていくのか。


無駄に長いと感じていた夕食後の時間。シシリアに今の自分と向き合うことはまだ出来ない。けれど、過去を思い返すことは出来るようになった。但し有頂天になる前迄だが。


そして、この日は再びスカーレットの言葉が頭を過った。アルフレッドはシシリアという卵を落とした。テレンス、ダニエル、ジョイス、誰も足を止めなかったのは、それが自然の流れと見做し手を出すべきではないと考えたからだ。では、落ちて割れたシシリアの次の役割は何なのだろう。ここにスカーレットがいたら何と言ったか知りたいとシシリアは思ったのだった。

申し訳ございません。今週半ばから年末にかけアルバイトが忙しく…

投稿が出来ない日が続くと思います。

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