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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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王都キャストール侯爵家1

スカーレットがキャストール侯爵家を出て十日程した頃、シシリアからダニエル宛の手紙が届いた。

貴族学院を修了したシシリアが、諸般の事情で忙しいことはダニエルも知っている。そんな中態々書いてくれた手紙にダニエルの心は躍った。


公にはされていないが、父からシシリアの養女先を決める催し物が開かれることは知らされていたダニエル。だから、この封筒の中身は喜ばしい知らせではないかと考えたのだ。

一刻も早く手紙を読みたい。本当は封を手で破りたいところだが、シシリアからの手紙だと思うとペーパーナイフでより丁寧に開封しなくてはとも思う。

喜ばしい知らせは逃げないのだ、ダニエルは逸る気持ちを抑えながら丁寧に開封することにしたのだった。


しかしそこには期待していた内容とは違うことが記されている。しかも何かがおかしい。

文面にはスカーレットの所業によりシシリアは養女先を得られなかったと書いてあるのだ。


どういうことだろうか?

スカーレットは既にファルコールに到着している筈だ。それは立ち寄った町々を治める貴族家から、無事に通過したと父に早馬で知らせが来ていたから間違いない。質問してもいないどうでもいいスカーレットのことを、鬱陶しくも父はダニエルへ伝えていた。

だから貴族学院で行っていたように、スカーレットが王宮で直接シシリアへ害を及ぼす言動は不可能。そもそも王家が催す重要な行事へ一介の貴族令嬢がのこのこ立ち入ることなど出来ないだろう。


それに、書いてある文言がシシリアらしくないように思える。

ダニエルが貴族学院に入学してから少し経った頃知り合ったシシリアは、可愛らしい容姿で、柔らかな微笑みを浮かべる女性だった。優しい性格が、表情に溢れたような。

ところが、そんなシシリアに酷い暴言を浴びせ、時には通行の邪魔だ、目障りな存在だと突き飛ばす高位貴族の令嬢がいるとダニエルは知った。そして、その令嬢こそ姉のスカーレットだとも。


「カトエーリテ子爵令嬢、誠に申し訳ない。あなたに嫌がらせをしているスカーレット・キャストールはわたしの姉です。何を妬んでいるのか、本当にお恥ずかしい限り。弟として心からお詫び致します」

「どうか頭を上げて下さい。スカーレット様からのお言葉は、きっとわたくしの足りない点へのご指摘です。ありがたいお言葉としてわたくしは受け取っております」

「いえ、そんなはずはない。弟であるわたしの耳にすら色々入ってきているのですから、実際にはもっと酷いものだと理解しています。本当に申し訳ない」

「差し出がましいとは存じますが、わたくし、お詫びよりは友人になっていただきたく思います。キャストール侯爵令息は確かにスカーレット様の弟君ですが、別の人間です。どうか、違う関係を築いていただけないでしょうか。ご了承いただけるならば、どうかわたくしのことはシシリアとお呼び下さい。そして、言葉遣いも気安いものに」

「分かりまし、分かった。じゃあ、シシリア、君も俺のことはダニエルと」


出会って間もない頃、シシリアはスカーレットとダニエルが姉弟でもスカーレットの所業を気にする必要はないと言ってくれた。そんなシシリアがどうしてスカーレットの所業をダニエルに言い付けるような手紙を送ってきたのか。

やはり何かがおかしい。

第一この手紙を受け取り読んだところで、ダニエルには何も出来ない。過去においてはシシリアへ酷い行いをするスカーレットを非難し距離を置いた。しかし今は、言葉を交わすことが出来ない本当に離れたファルコールにスカーレットはいるのだ。


何より前提がおかしい。

アルフレッドの心がスカーレットからシシリアへ向かったことがそもそもの始まりだとダニエルは聞いていた。侯爵令嬢として育ったスカーレットのプライドがシシリアへ敵意を剥き出しにしたと。


父は言っていた。スカーレットがシシリアの養女先を見つける手立てを考えたと。そして、間違ってもスカーレットが再びアルフレッドの婚約者になることもないと。


では、何故、シシリアからの手紙にはスカーレットが何らかの妨害行為をしたと書いてあるのだろうか。


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