王都キャストール侯爵家8
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今後、国境警備の体制が変わる。キャストール侯爵にとってそれは、金の負担が大きく変わることを意味していた。それも良い方へ。
更に今までの関係を鑑みて、国は敢えて隣国の国境を接するケレット辺境伯家の騎士をファルコールに滞在させるという。たった三人とはいえ、大盤振る舞いだ。
しかしそうしなくてはいけない事情があるのも事実。
隣国の大貴族、外交の要、パートリッジ公爵家の二人の娘がそれぞれ国境を接する家へ嫁したことで、『仲良く』守っていた国境線。
その絶妙なバランスをアルフレッドが片方の国境を守る家の娘、スカーレットに多くの貴族の子女達の前で婚約破棄を突き付けるという暴挙で壊したのだ。
長い年月を掛けて築いてきた関係を壊したのは一瞬。けれど、その一瞬の代償は大きく王家に、そして国に圧し掛かっている。
この国に住むとはいえ、侯爵は今という現状に胸のすく思いがするのだった。それに治外法権を主張するかのように閉ざされた貴族学院の改革も始まった。表にあまり出ない名誉学院長という役職ではあるが、旗を振るのはキャストール侯爵自身。二度とスカーレットのような大人の思惑の犠牲になる生徒を生まない為にも透明性のある学院運営をしなくてはいけない。
造られた成績や噂で、介入出来なかった日々が侯爵には悔やまれる。仮に、介入すれば教育という機会を平等に与える貴族学院に侯爵という権力を振りかざしたと見做されるのは避けられない。それこそスカーレットを助ける為の一時の行動が、在学するスカーレットのその後をずっと苦しめることに繋がりかねなかった。どういう訳かキャストール侯爵家のもう一人、ダニエルまでもがスカーレットを攻撃していたのだ、真実が見え辛くなっていた。
貴族学院での多くのことが詳らかになった今、侯爵が制度改革を進めることを誰もが正しい行いだと思うだろう。私怨がないと言えば嘘になるが。
今回のケレット辺境伯家の騎士三人を王宮へ連れて行った時にも侯爵は軽く嫌味を伝えた。
療養中の娘に専属の医師を付けたいが、どこの家の手の者と繋がっているか分からない国内の医師よりは隣国のケレット辺境伯領から招きたいと。
王宮の者は皆渋い顔をした。それはそうだろう、誰と誰が繋がっているかあなたが知らないはずなどないと言いたいのだから。しかし裏を返せば知っているからこそ、スカーレットの情報を守る為に国内の医師を拒否したとも取れる発言。
侯爵の押しの一手、『少しでも早く娘が外の世界を見られるよう一刻も早く医師をどうにかしたいのだが、そもそも今まで国に医師を要請してもファルコールには二人しかいなかった。国を守る私兵はしっかり鍛え上げろという意味だったのだろうが』で、その日の内にスコットは招かれることが決まったのだった。
スコットへのファルコール滞在を無期限に認める許可証を見ながら、侯爵は国王の胸中を想像せずにはいられなかった。
腹立たしさ、怒り、やるせなさ、何でも良い、その感情を覚える度にスカーレットの気持ちを考える切っ掛けになってくれれば。
そんなことを思っていた侯爵だが、その日ファルコールから戻ってきた遣いの者の報告に頭を抱えたくなった。
スカーレットがファルコールで楽しく暮らしていることは間違いないようだが、どうしてジョイス・リプセットを滞在させたのか。しかも、その後ジョイスの従者をそのまま滞在させているとは。
侯爵は可愛い娘が何の心配もなくファルコールで過ごせるよう、少し手を回す必要があると考えた。




