表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

114/673

王宮では17

いたずらに引き延ばすのは良くない。いくら考えても結果が見えることなどないのだから。


一人で数日考えるだけで、様々な葛藤がある。これがそれぞれの思惑を持つ貴族院の者達がかつて考えたアルフレッドとスカーレットの婚約はどうだったのか。たまたまとは言え、同い年の娘がキャストール侯爵家にいたことを喜んだ者もいれば、妬んだ者もいたはずだ。しかし、陰で妬む者を決して表に出させない力がキャストール侯爵家にはある。それに何時かは自分達も潤うのだからと、賛成した者もいただろう。


しかもその『何時か』は曖昧な未来を指す言葉ではなかった。スカーレットが婚約者になってから、キャストール侯爵は試験的に隣国と接するファルコールから王都までの街道整備に着手した。莫大な費用が掛かるその事業。費用は四分の一が国庫、残りはキャストール侯爵家一門が担った。試験的整備なのだから全額を国が賄うのはリスクが高すぎると。


これによりキャストール侯爵家が力を持ち過ぎることをよしとしなかった貴族達も納得した。整備にキャストール侯爵家がその財を使えば、力が弱まるのではないかと。

ところがその当ては外れた。武のキャストール侯爵家が、知略をめぐらし街道整備を行ったのだ。街道を通る者達が何を必要としているか考えられた整備は、寧ろ金を産んでいったのだった。それを見せつけられては、『何時か』を待っていた者たちも早くその時が来て欲しいと思っていたことだろう。


結果的にアルフレッドは首を長くして『何時か』を待っていた者達からの反感を買っていることは間違いない。誰も顔に出していなくとも。


父である国王が言った『利を取った』、それはここに起因する。キャストール侯爵と国内で張るのはテレンスの家、キャリントン侯爵家。そのキャリントン侯爵家にキャストール侯爵家の手法を真似て街道整備をしろと言っても引き受けない。だから、テレンスを婿に差し出すのだ。それも遠く離れた国へ。末姫の居る国までは二つの国をまたぐ。キャストール侯爵家が国内を整備したのなら、キャリントン侯爵家には国外へ向け通ることが出来る道と伝手を伸ばさせる。通商の為の門戸を開き整備させるのだ。

全く違うことを依頼すればキャリントン侯爵は頷くはず、しかも国内の街道整備よりも難しいと思われることを。


関係が何もない国へ向かうことは難しい。けれど、息子が居る国、しかも姫の婿になった息子がいる国ならばキャリントン侯爵家の者がそこへ向かう大義名分が出来る。


『個人の感情、もう一度スカーレットを手に入れようとは思わなかったのか?国の為になるのであれば、一時の出費は回収出来る。ジョイスを追いやった方がその選択肢が残る確率が上がるとは考えなかったか?』

父の言葉が頭を過った。ジョイスが昔スカーレットに恋したことは事実。だからといって、再び恋をしたところで深い亀裂が走った関係性を簡単にどうにかするのは難しい。

それを理解した上でテレンスを選んだのであれば、アルフレッドは利に見せかけて個人の感情を優先したことになるのかもしれない。

『切らなかった方のカードがどう動くかでわたしの気持ちが救われる可能性があります』と父には言ったが、スカーレットの心を傷付けたことを反省したジョイスもまた動けないでいる。現に一度目の隣国訪問の際に、ジョイスはスカーレットを訪ねたりはしなかった。ハーヴァンからはそう報告を受けている。


しかし、側近を外れたジョイスがスカーレットの為に何らかの行動を取るならば、一番傷付けてしまったアルフレッドの代わりにしっかりやってもらうまでだ。

狡いのは分かっているが、様態を気遣う手紙すら送れないアルフレッドに出来ることは何もないに等しい。


そして、アルフレッドは二人の側近が待つ執務室の扉を開けたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ