表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

110/673

69

何と鮮明な夢を見たのだろうか。鮮明というよりは、まるで別世界を覗き見たような夢だったと薫は思った。


睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があると前世で習った。脳がしっかりお休みするのがノンレム睡眠。対してレム睡眠では脳がお休みしないと薫は覚えている。それでは、折角の睡眠が勿体ないと思いきや、レム睡眠では身体はお休み中なので、脳は余計な指令を身体へ送らない分、脳だけの機能に専念出来るらしい。薫が習ったのは随分前のことなので、その後もっと研究が進んだ可能性は高いが、その脳だけが機能することで記憶や感情などの情報整理を人間は日々行っていると当時の教師は話していた。


そして鮮明な夢というのは、脳が機能しているレム睡眠中に見ているとも習った。

夢の中にデズモンド・マーカムが出てきて色気を振り撒いていたのは、なんとなくだが感情の整理をしていたのではないと思える。しかしそれは夢の最初だけ。その後のデズモンド・マーカムの表情は昏かった。


少しの間覗き見ただけだが、詰め所でのデズモンド・マーカムはあんな表情を一度も浮かべていない。だから、夢の中のあの表情は記憶でも感情でもないということだ。では、どこから…。


しかも、起きてから既に十分以上は経過したというのに、薫は夢の内容を全て覚えている。驚くことに夢の中でスカーレットが産んだ子供の名前まで。


予知夢…、それは有り得ない。スカーレットは婚約破棄後王都に残らなかったし、ここにいるスカーレットの中身は薫なのだから。


けれど、もしもだ、スカーレットが創造主のシナリオ通りに動いていたら、薫が見た夢は無きにしも非ず。あの婚約破棄後に起こっていた未来かもしれない。記憶ではなく、本来のスカーレットが辿る運命が脳のどこかに存在していてデズモンド・マーカムがそれを引き出す為の鍵だとしたら…。酷過ぎる。


夢の内容は婚約破棄後のスカーレットが更に不幸になるものだった。これはイービルからの警告だろうか、デズモンド・マーカムに気を付けろという。しかし、スカーレットを心から愛するイービルが薫の夢だからとあんなシーンを見せるだろうか。初恋相手がスカーレットという理由だけでジョイスまで妬ましく思うイービルが。


夢、それとも本来あるべき未来、薫が見たのはどちらなのか。否、もっとしっくりくる言葉がある、原作という。

でも、ここはファルコール。どちらの舞台でもない場所だ。ただ、場所を変え登場人物が集まってしまっただけ。

夢でナーサは泣いていた。どうしてスカーレットが命を絶つ必要があったのかと。そして父親のデズモンド・マーカムに似たまだ幼いベンジャミンを抱き締めていた。


可笑しなことに、夢はスカーレットが亡くなった後も続いた。だから薫は『スカーレット?そんな女もいたような気がするな。遊び相手の一人に過ぎないから、子供と言われても困る。勝手に産んだんだろ、あの女が。俺には関係ない』というデズモンド・マーカムの台詞まで聞いてしまったのだ。


その時のデズモンド・マーカムの表情は本当に昏かった。昨日見たあのデズモンド・マーカムに同じ表情は作れないだろうと思う程。

仮に薫がファルコールへやって来たことで、デズモンド・マーカムの何かが変わったのなら今のままの方が良い。夢の中のストーリーではスカーレットだけではない、デズモンド・マーカムにも不幸が訪れたに違いない。力あるキャストール侯爵家の令嬢を辱め、子をなし、捨てたとあれば。


頭を抱え叫びたくなるような原作らしき夢。そんなものに負ける程、薫はか弱くない。寧ろ強い女だ。

この体を得た時に決めた、これからの人生を楽しみながらスカーレットの希望を叶える為にも原作らしき夢すら利用するくらいの気概を持たなくては。


先ずは近々挨拶の予定を入れることになっているデズモンド・マーカム。『そんな女もいたような気がする』なんて二度と言わせないよう最高の笑顔を見せつけてやろうと薫は考えたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ