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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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その日のカトエーリテ子爵家3

泣きじゃくる娘が、話した内容をどれだけ理解しているのかは分からない。王宮からの通達が泣いて覆るはずなどないというのに。もしそんなことがあるのならば、カトエーリテ子爵こそ、大切な娘の為にいくらでも泣きたい。


通達には、シシリアを規律の厳しい修道院へ送るということが無機質な、けれど美しい文字で綴られていた。しかも還俗が認められることは未来永劫やって来ないという但し書き付きで。まだ、十八歳のシシリア。この先何十年という気の遠くなるような年月を、修道院で過ごさなくてはいけないと決められてしまったのだ。


父親の立場で言うならば、娘は恋をしただけ。ただ相手が悪かった。

国に仕える子爵という立場で言うならば、シシリアは国を乱した。国で決められた婚約者がいるアルフレッドにすり寄るなど言語道断だ、と憤慨するべきだろう。


でも、カトエーリテ子爵は父親であり子爵でもある。だから、本来はもっと早く娘を諭すべきだったのだ。貴族学院でのアルフレッドが、気まぐれで交友関係を広げただけだろうなどとは思うことなく。

まさか、アルフレッドがキャストール侯爵令嬢、スカーレットとの婚約を破棄し、シシリアを本気で選ぶなど考えてもみなかった。

そもそも、足りなさすぎるだろう。キャストール侯爵家ならば、王家に嫁す為の資金力が十分にある。それは何も本当に嫁ぐ時の話ではない。いずれは王子妃になる娘への幼い頃からの教育費、周囲を固める費用、社交費用。子爵がシシリアに掛けた費用など比べるまでもない。


王宮からの通達とは別にアルフレッドから子爵に宛てられた手紙。シシリアへ見せないようにと前置きが書かれた上で、何故こんなことになったのかが記してあった。簡単に言えば、シシリアが都合良く持ち上げられてしまったと。


冷静に考えれば、資金力の違うキャストール侯爵令嬢よりもシシリアの成績が良いということに疑問を持つべきだった。礼儀作法と楽器の演奏という誤魔化しようがない実技だけが他より成績が悪いことにも。

アルフレッドの手紙には書いてはいないが、誰もが簡単に持ち上げられると踏んだからシシリアが選ばれた。その程度の頭の持ち主ということだ。


嗚咽を上げる娘を見ながら、子爵は先ほど妻に話した決意は急がなければならないと思った。

「シシリア、部屋で休んで来なさい。落ち着いた頃、家族皆で話をしよう」

「み、みん、な、で」

「ああ、そうだ。シシリア一人が修道院へ行けばいい話ではないからね」


先に泣き止んでいた妻がシシリアに付き添い部屋から出て行くと、子爵は取り急ぎ必要な書類を集め出した。そして、幼馴染へ手紙を一通認めたのだった。


アルフレッドの手紙には何故シシリアに還俗が許されないか記されていた。とても簡単な理由、利用されることを避ける為と。仮にアルフレッドを諦めきれないシシリアに、アルフレッドと同じ髪と目の色の男が近づき唆したら、とんでもないことになる。そんな馬鹿なことは起きないだろうと信じたいが、今この現状が既にとんでもないことなのだ。何が起こるか、未来のことなど誰にも分からない。


ただアルフレッドの手紙の内容から、子爵にはシシリアが本当にとんでもないことを仕出かしていたことだけは分かったのだった。

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