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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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その日のカトエーリテ子爵家1

シシリアの未来に暗雲が立ち込めた日は、皮肉にも雲一つない快晴だった。


カトエーリテ子爵邸は貴族の邸の中でも小さい方だ。何人も門番がいる立派な門も無ければ、門から正面玄関までの長い道のりもない。あるのは、目隠し程度の塀と簡素な門、そこから延びる短いアプローチにそれなりの子爵家だという様相を呈した正面玄関だった。

邸が建つのも、貴族街の外れ。王宮寄りの高位貴族の大豪邸が建ち並ぶエリアとは異なり、一軒一軒が比較的密集する場所だった。


その日、門番という名の様々な役割をこなす使用人が慌てふためいて邸の中へ入ってきた。父であるカトエーリテ子爵に王宮からの遣いがやってきたことを伝える為に。

それを聞いたシシリアはすぐさま二階へ向かった。どうして王宮からの馬車に門番がそんなに慌てたのか確かめるためだ。最近は来なくなってしまったが、それまではアルフレッドの遣いが手紙を届けにやってきていたのだ、何をそんなに慌てる必要があるのかと。


そして二階の窓からシシリアの視界に入ってきた馬車は、門番が慌てるのも成る程と頷ける立派なものだった。

シシリアは理解した、やって来た使者は王宮の何らかの役割を持つ者だと。アルフレッドの個人的な遣いではない。それに、門番は遣いが父を訪ねてきたと言った、シシリアではなく。


立派な馬車に、家長への挨拶。考えられるのは王宮からの遣いがシシリアを迎えにやって来たということ。それならば、事前に知らせておいて欲しかった。これから髪やドレスの支度をするとなると遣いを待たせてしまう。


でも、シシリアはいずれアルフレッドの妃になる身。今後の身分を考えたら、遣いの者など待たせておけばいいということかもしれない。

全てはアルフレッドが手配してくれたこと、シシリアはその意向に従えば良い。最近何の音沙汰も無いと思っていたが、そのことを含めこれらはアルフレッドがシシリアを最大限に驚かせ喜ばせようとした策の一環だったのだろう。

ダニエルだって自分を磨いて待てと手紙に書いてきた。あれは、シシリアを驚かせようとしているアルフレッドに余計なことは知らせるなと止められていた、そう思うと素っ気ない内容も頷ける。


先程はドレスの支度と思ったが、王宮に上がるシシリアにアルフレッドは新しいドレスと髪飾り、それも未来の妃に相応しいものを遣いの者に持たせているのかもしれない。だったら事前連絡など不要。どの道着替えなくてはならなかった。けれども、子爵家の使用人に、未来の妃が纏うようなドレスをしっかり着付けさせる者がいるだろうか。髪型だっていつものようでは格好がつかない。

それとも、このまま上にローブだけ巻かれ養女として迎えてくれる貴族家の邸で支度をするよう既に取り計らわれているのだろうか。何せ、あのアルフレッドだ。


シシリアはワクワクしながら、父から声が掛かるのを今か今かと待ちわびた。

しかし、おかしなことに王宮からの遣いの者達はシシリアを馬車に乗せることなく邸から去って行った。


窓からはまだ馬車が見える。だから然程時間は経っていない。けれど喜ばしい知らせに父は我慢出来なかったのだろう、直ぐにメイドがシシリアを呼びに来たのだった。


父の元へ向かうシシリアは反省した。先程の遣いの者は、先触れをしに来たに過ぎないのに勘違いしてしまったと。王家のしかも王子であるアルフレッドが正式に使う先触れだ、馬車だって立派なものに決まっている。


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