第3話
誰にも通報されていないことを祈りつつダブル女児を部屋奥へエスコート。クールダウンと仕切り直しを兼ね、麦茶とアソート菓子を二人に出す。
「……まず、あたしの知らない子がヘンなコスプレをしている件について」
対面に座る魔王の上半身を冷めた目で値踏みする牡丹。
「ムッ、『ヘン』とは余のことか?」
「ヨのことよ」
「オヌシこそなん……ん?んん〜っ!? 初対面のはずじゃが、どこかで見た気がするのぅ」
魔王が左右に首を傾げ赤みがかった天パセミロングを揺らす。
それもそのはず、ついさっきまで彼女が観賞していたDVDの主人公様だからな。
目の前で優雅に麦茶をすする姪は、キッズモデルを経て最近まで女児特撮番組のヒロインを務めていたりする。
「イイ勘してるぞ魔王。ヒント、さっきまで観ていた」
「おぉっ『バンブーゲッタープリンセス』のプリンセスダリア……天竹牡丹ではないのかっ!?」
「アマタケ・ダリアですっ」
主人公キメポーズで挨拶する牡丹。ややこしいが本名は『天竹牡丹』で、芸名&役名が『天竹ダリア(あまたけだりあ)』だ。察しの通り、天竹牡丹→あまたけぼたん→てんじく(ちく)ぼたん=天竺牡丹(ダリアの和名)=ダリアということらしい。
「って、なんで怯えてんのよっ?」
見れば魔王は顔面蒼白でガタガタ震えている。
「どうした魔王?」
隣でアワアワしている魔王にコッソリ聞く。
「おまっ、プリンセスダリアといえば魔族に容赦ない常勝無敗の女戦士じゃろーが!余、魔王!余、ピンチ」
まぁ番組上、主人公が負ける訳にいかないからな。
ちなみに『バンブーゲッタープリンセス』とは朝に放送していた女児向け特撮番組だ。
反応こそ真逆だが、牡丹のイベントに集まる児童と同様、ホンモノと思っているところが微笑ましい。
「なにをニヤけておる!余、ピンチじゃ! 正体がバレたら『ワンサイデッドリームストライク』で処されてしまうではないか」
補足の連続で申し訳ない。『ワンサイデッドリームストライク』とはプリンセスダリアの必殺技である。
one sidedly、deadlyなどを組み込み、およそ女児とは縁遠い単語を技名に昇華させている。振られるルビはワンサイデッドリームストライク(一方的な死の直撃)らしい。ドリームはどこいった。
「あの長い技名よく覚えたな」
こちらの世界ではショボい光球程度しか出せない魔王、そりゃ焦りもするか。
「牡丹、あんまり圧をかけてやるな。これでも魔王さまなんだ」
「まおうさまが何でにーとーちゃんの部屋に?」
「優秀な人材を求めて的なやつだ。ヘッドハンティングが決まったら『にーとーちゃん』とは呼ぶなよ」
牡丹の小さい頃からよく面倒を見ていたので、ある意味『兄であり父でありニート』である俺をいつの頃からかひっくるめて『にーとーちゃん』と呼ぶようになっていた。
「ヘッドハンティングは会社につとめている人がされるんだよ? なにか夢ちゃった?」
やめろ牡丹、俺をそんな憐れんだ目でガチ心配するんじゃぁない。
「そ、そうじゃったのぅ……どれ、余と共に行くかの」
魔王まで変な気を遣うんじゃない。
「結局、おしごと先のむすめさんってことでいいの?」
「まだ引き受けると決めたワケじゃねぇけどな」
「あたし、つきそってあげようか?」
JS特有の背伸びした母性本能的な何かに突き動かされているのだろうか、小さな両手で俺の手をつつみ、眉を「ハ」の字にしてまたもガチ心配する牡丹。
「なんと!プリンセスダリアが同行すると言うのか!?」
「どうすんだ魔王。魔界やべぇぞ」
魔王の耳元でこっそり煽ってみる。
「ワンサイデッドリームストライク祭りじゃ……滅んでしまうのじゃ……」
「ねぇ、あたしの気のせいかなぁ? なんかこの子と噛み合ってないと思うの」
まぁ、魔王にしてみればテレビ番組すべてがノンフィクションなのだ。魔物を屠るのが生業のプリンセスダリアとは相性が悪いだろうよ。
「プリンセスダリア本人が目の前にいるからな。そりゃピュアな魔王は緊張もするさ」
お前を羨望の眼差しで見る普通の女児と同じ反応にはなるまい。
「やっぱり怯えて……る?」
あたし怖くないよねぇ?って困り顔を俺に向けられてもなぁ。怖いかどうかは別として、身内って事を考慮しても牡丹は同世代より頭一つカワイイと思うぞ。口には出さないが。
「少女のあこがれ『天竹ダリア』が怖がられるなんて不本意だわ! わかった、ちょっと待ってて」




