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第2話

 他人の眼に触れる事無く全力で帰ってもらうんだ。あらぬ噂が立つのは避けたいからな。とりあえずは冷静に、落ち着こう。

 簡易テーブルを展開し、インスタントコーヒーを淹れ、買い溜めしてある菓子を引っ張り出す。

 対面にちょこんとしゃがむ幼女へ並べたそれらを無言でススメ、小さく息を吐いて話を切り出した。


「いや、俺も長年オタクをやってるケドね」


 突然現れた魔王と名乗る幼女。

 可愛らしい口から紡がれる殺害宣告。

 その小さな手のひらから放たれた光球。


「この現実をすんなり喜べるほどの覚悟は持っていないのですよ」

「ベテランゆえの余裕か、結構順応しているように見えるのじゃが」

「本当に別の世界から来た魔王なの? さっきの光球とかワンチャン手品でしたとか……」

「余の最大魔力を手品とは、さすが勇者よ」


 悔しさからか、小さな肩を震わせていたが、やがて脱力し落ち込んでしまった。

 最大魔力のしょぼい威力。ダメオタク知識をフル回転させ搾り出した答えは、良くも悪くもこの世界に魔力の元になるモノが存在していないからだろう。


「ま、まぁそんな落ち込まずに……ほら、一緒にDVDでも観ようぜ」


 いわゆる『ニチアサ』と呼ばれる子供向け番組を録り貯めていたものだ。


「こ、これはっ……! お前が記録した映像かっ!?」

「え? そうだけど」


 テレビ画面に釘付けの自称魔王。くいつきが良くて、気がつけば結構な本数を消化していた。


「目の前の男はこれだけの戦いに同行したと言うのか、おそろしい……」


 ん――? なんか的外れな事をブツブツ言っているなぁ。戦いに同行? あぁテレビ番組を本物だと思っているのか。見た目相応の反応が新鮮で微笑ましい。


「にぃーとぉーちゃーん! いるー? いるよねぇー!? あーけーてー」


 突然ドアを叩く音。幼女とのニチアサマラソンで忘れていたが、気が付けば日も暮れかけていた。


「誰じゃ?」

「姪っ子だよ。夏休みの間、姉貴が帰宅するまで俺が預かるんだ」


 昨夜、ニートの俺を見かねたバツイチ姉貴が、時給1000円で強引に依頼してきたのだ。

 ドアを開けると。


「ちょっとコレもってー」


 図工道具やら枯れた鉢植えやら纏めて持ち帰り品フル装備状態のJSが汗だくで立っていた。


「ずいぶん溜め込んだなぁオイ」


 目の前の女子小学生は大量の荷物で身体が『く』の字に曲がり、外回りのベテランサラリーマンさながらのくたびれっぷりだ。


「迎えにきてってメールしたのにー‼」


 俺の顔ギリギリに突き上げられるキッズ携帯。自分のスマホを確認すれば、結構な件数のメールと着信があった。


「悪かったな牡丹。人生最大のイベントに巻き込まれているんだ。現在進行形で」

「え? ニートなのに? ひとなみに人生最大のイベ……」


 部屋奥に動く人影を確認したのか、目を丸く見開き罵声が尻すぼみになる。


「待って待って、防犯ブザー引くのやめて?」


 突き出したキッズ携帯のストラップに指をかける牡丹。その視線の先を追って振り返ると。


「なんじゃ?」


 確かに牡丹からすれば、知らないコを連れ込んでコスプレさせてるヤバイ引篭もり野郎と思ってしまう状況だな。


「わたしだけではあきたらず、外人さんまで……」

「おま、飽き足らずて」


 玄関先で人聞きの悪い!


次回更新は6/26前後の予定です。

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