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冬童話2021 『さがしもの』

白ねこのネネと黒ねこのニニ

作者: 小畠愛子

 白ねこのネネの一番の遊び相手は、黒ねこのニニでした。ネネとニニは、いつもいっしょです。生まれたときからずっとずっと、狩りをするのもお昼寝するのも、いたずらするのだっていつもいっしょです。じゃれあいながら、ときどきけんかしても、すぐに仲直り。ネネは世界で一番ニニが好きでしたし、ニニも世界で一番ネネが好きでした。


 ネネとニニはのらねこでした。いいえ、正確にいえば、捨てねこです。ほんの小さな子ねこのときに、公園のすみに捨てられていたのでした。それ以来、二匹は常に、助け合って生きてきました。小さいながらに協力して、他のねこたちの狩りを見よう見まねでやってみたり。寒い日はふるえながら、二匹でよりそって眠りました。暑い日も日の当たらない木かげで、やっぱりよりそって過ごしました。二匹は兄妹というよりは、もはや分身のようでした。


 それはずいぶんと寒い日でした。ネネはその日体調が悪く、狩りをしようと誘うニニに、そっぽを向いて丸まっていたのです。ニニは心配そうにネネをのぞきこんでいましたが、今日は一人で狩りに行こうと思ったのでしょう。ネネをおいて行ってしまいました。


 公園のすみ、二匹が捨てられていたあの場所で、ネネはさびしそうににゃあと鳴きました。本当はニニといっしょに狩りに行くか、ニニがそばにいてほしいと思っていたのです。ですが、狩りをしてなにか食べなければ、それこそ病気で死んでしまうでしょう。ネネはニニが帰ってくるまで、少し眠ることにしました。


 ネネが気がつくと、すでに朝になっていました。ネネのとなりには、ニニが捕まえてきたのでしょう、小さなネズミが一匹横たわっていました。ですが、ニニのすがたが見えません。ネネは甘えるように、にゃあと一声鳴きました。しかし、ニニは現れません。いつもはこれで、ネネによってきてやさしく毛づくろいしてくれるのですが、今日はニニは現れませんでした。


 きっとまた狩りに出ているんだろう。小さなネズミだったし、もっと大きなえものを狩ってこようって思っているんだろう。ネネはそう思いこもうとしましたが、胸の奥にもやもやとしたものが広がって、大好物のネズミも、なかなかのどを通りません。やっとのことでネズミを平らげたあと、ネネはもう一度にゃあと鳴きました。ニニは現れませんでした。


 次の日も、そのまた次の日も、ニニは現れませんでした。具合もよくなり、ネネはニニを探しに行くことにしました。


 どうせニニのことだ、ネネがいっしょに狩りに行ってくれなかったから、すねて、いたずらでかくれているのだろう。ネネは無理やりそう自分にいい聞かせて、二匹でいったいろいろな場所を、にゃあ、にゃあと鳴きながら探していきました。


 公園から出て、ネネは自分たちのなわばりを一通り探しました。いつもニニとじゃれながら歩いたなわばりも、一匹だけだとさびしく、少しも楽しくありません。それでもネネは我慢強く、にゃあ、にゃあと鳴きながらニニを探しました。


 ニニがいなくなって、一週間がたちました。ニニのすがたは見えません。ニニの鳴き声も聞こえません。夜はニニのにおいがない、不安だらけの寝どこで寝なければなりませんでした。いつもは二匹で協力してする狩りも、今はネネが一匹でしなければなりません。やっとで捕まえたえものも、ニニといっしょに食べていたときと比べて、なんと味のしないことでしょうか。ネネはだんだんとやつれていきました。


 大通りの、向こうがわへ行ったんだ。


 ネネはだんだんと、そう思うようになっていました。公園の向かいには、大きな道路があります。人間たちの乗り物、車といったでしょうか? それが何台も走って、見ているだけでおそろしくなります。一度だけ、ネネとニニはこの大通りの向こうがわへ行ったことがあります。


 あのときも、えものが見つからずに、狩りが失敗続きだったときだった。


 大通りの向こうがわには、たくさんのえものたちがいる。先輩のねこにそう聞いて、二匹は車がとぎれるのを見計らって、なんとか向こうがわに渡ったのです。確かにそこには、ネズミやバッタ、コオロギがたくさんいて、夢中で二匹で狩りをしたものです。でも、その帰り道、車に引かれそうになって何度も引き返し、やっとのことで帰ってきたのでした。


 向こうがわには、もう行かないでおこう。


 二匹はそう決めて、今まで暮らしていたのです。でもあの日は、ニニだけだったから、狩りに失敗していたのでしょう。それで大通りの向こうがわに行こうと思ったのでしょう。


 きっと向こうがわに、ニニがいる。向こうがわに行けば、ニニに会える。


 大通りの前に立って、ネネは大きく深呼吸しました。ここをこえれば、大好きなニニに会えるのです。そう思えば、まるで怪物のような人間たちの車も、超えられるような気がしました。


 ニニ、待っててね!


 ネネがかけだそうとしたときです。ネネの足元から、ニニの、にゃっ! という鳴き声が聞こえてきたのです。それはニニが、ネネをしかるときの鳴き声でした。ニニは思わず自分の足元を見ました。


 ニニだ!


 ネネの足元に、ニニはいました。お日さまが作った影が、まるでニニそっくりに、ネネにじゃれるようによりそっていたのです。


 ニニ、そこにいたんだね。大通りの向こうがわにはいないんだね?


 ネネは地面にすわりこみ、いとおしむように影になったニニにほおずりしました。ニニの、にゃあという甘えるような声が聞こえた気がしました。




 白ねこのネネの一番の遊び相手は、黒ねこのニニでした。ネネとニニは、いつもいっしょです。生まれたときからずっとずっと、狩りをするのもお昼寝するのも、いたずらするのだっていつもいっしょです。じゃれあいながら、ときどきけんかしても、すぐに仲直り。ネネは世界で一番ニニが好きでしたし、ニニも世界で一番ネネが好きでした。


 ――そして、二匹はもうずっと、離れることもなくいっしょにいられるのでした――

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― 新着の感想 ―
[一言] ネネが体調不良でダウンしている間に、ニニは亡くなってしまったのですね。 体はなくなってしまったけれど、ネネの影の中にやってきてくれたニニ。 ある意味、これまで以上に近くにお互いを感じられるよ…
[一言] 外で生きる野良猫ちゃんたちの寿命はとても短く、数年だと聞いたことがあります。病気や怪我、特に交通事故で命を落とす子達がとても多いです。ニニとネネのお話はどのひとにとっても身近なお話なんですよ…
[一言] いつも素敵なお話をありがとうございます。 最後ちょっとうるっとしました。
2021/01/13 15:23 退会済み
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