夏休み-2
「あ、いたー!」
そろそろ聴き慣れてきた声。
振り返ると、篠田さんに斎森さん、萩原さんに村上さん。おそらく河野さん会長菅野さんはうまく逃げて、4人がファンに囲まれていたのだろう。
「あれ、玲奈ちゃんと結衣ちゃんじゃん!」
「浴衣いいね〜。玲奈ちゃんかわい〜」
篠田さんも村上さんも通常運転である。
「何、なんかお通夜じゃん」
何か雰囲気を察した萩原さん。無駄に反応する会長のせいで真実味を帯びる。
「鳴動さん達に絡まれたんだよ」
駒井の会長は鳴動というらしい。
「あー、だから菅野の機嫌が悪いのか」
「珍しく手出さなかったからから明日槍降るよ」
「えーそうなんだ。なんか理由あんの?」
「あ?あぶねえことすんなって言われたからな」
萩原さんは結衣を見る。保健室での発言を覚えていたようだ。
「へぇ〜。菅野にしては素直だね」
普段どれだけひねくれているのだろうか。そもそもどうやって生徒会に入ったのかさえ気になる。
「菅野が聞き入れる人物は存在したのか…」
斎森先輩まで驚いている。
結衣は知らんぷりを決め、最後のたこ焼きを頬張る。
「あれ?玲奈ちゃんの髪って結衣ちゃんがやったの?」
髪型の差異に気づいたらしい村上さん。女子ウケがいい理由がわかった気がする。
「そうなんです!結衣は昔から器用で、よくやってくれるんです!凄いですよね!!」
よくぞ気づいてくれた!とマシンガントークをしている玲奈。
「すごいね〜。似合ってるよ」
「結衣がやってくれたから当たり前ですよ!」
玲奈は基本結衣のことは無条件で受け入れるので、仮に変な髪型にしても怒らないだろう。もちろん、するつもりもない。
「あったこ焼き食べたかった…」
思い出したかのように篠田さんは呟く。
「買ってくればいいんじゃないですか?」
何も考えていない玲奈はたこ焼き屋の方を指差す。
「いやー、買おうと思ったら囲まれちゃって買えなかったんだよー…」
「多分、ファンの子達にたこ焼き食べたいなあーって言えば誰か貢いでくれますよ」
「そんなことできないよ!たこ焼きやさんに迷惑かかっちゃうし」
心無い結衣の言葉に篠田はむくれる。
「結衣ちゃん達が買ってくればいいんじゃん?」
村上さんが名案、とでも言いたげに提案する。
普段玲奈に絡んでいる村上さんが今、結衣の名前を出したことに顔面格差を感じたが、慣れているので無視する。
「私たちをパシリに使うんですね!?」
玲奈のセリフに内心親指を立てる。
「ごめんごめん、そーゆーつもりじゃなかった。お詫びに海行こう」
「お断りします」
「なんでよー」
茶番を横目に、公園のゴミ箱にゴミを捨てる。夏祭りの期間だけ設置されているのだ。
「あー、そろそろ…」
照らされた時計を見上げる。指しているのは8時半。
「あ、結衣門限か!帰ろ帰ろ!」
「うそー、玲奈ちゃんは残らない?」
「残れないことはないですけど…1人だし」
「俺らと一緒に遊ぼーよ」
「パシリはしませんよ?」
「あれは冗談だって!」
玲奈は村上さんのお気に入りになったらしい。
頭をぺこりと下げて、帰ろうとする。
「あ、待って送るよ」
斎森先輩が駆け寄る。久しぶりに女の子扱いされて感動してしまう。
今度こそ玲奈と役員達と別れて、家路につく。
「ごめんね、村上失礼だったよね」
「慣れてますので」
「なんかごめん…」
結衣はなぜ二回も謝られたのかわからなかったが、目の前の人物に全て意識を持っていかれた。
「おぉー。今度は副会長か。腹ペコ嬢ちゃん」
煽り会長こと鳴動さん。今度は1人だ。
相手をする気は無いので、横を通り過ぎようとする。
「おいおい、無視はねーんじゃねーの?」
腕を掴まれてしまう。結衣は仕方なく振り返った。
「不快な発言をする赤の他人を構う必要性を感じません」
「不快?図星の間違いだろ?」
「西川さん達に罪はない、やめてくれ」
斎森先輩が掴んでいる手を引き剥がす。鳴動は舌打ちをした。
「用件がないのならばもう行きますが」
不機嫌そうにあー、と声を上げた。
「文化祭、待ってろ。以上だ。またな」
鳴動は祭りの方向に消えていった。
「待ってろ、って生徒会に向かって言ったんですかね?」
「おそらく、そうだと思うけど…なんで西川さんに?」
「よくわからないですね」
その後、斎森先輩と別れ帰宅した。