夏祭り-1
「週末のお祭り、一緒に浴衣で行かない?」
スマホから流れる玲奈の声。先程電話がかかってきたのだ。
「着付けは」
「もちろん!!よろしくね!」
「はぁ〜い」
何時にうちに来るか約束をして、浴衣を引き出す。
アイロンをかけて、髪飾りを棚から取り出し、鏡の前に置いておく。
籠も下駄も探し、当日に備えた。
「お邪魔しまーす!」
約束の五分前に玲奈はやってきた。
共働きの為両親はおらず、兄も一人暮らし。基本家のことは結衣がやっている。
「よろしくお願いしまーす!」
和装の肌着を着てもらい、着付けをする。
「相変わらず手際いいねえ」
完璧着付けし、ヘアアレンジを始める。
「暑いからアップスタイルがいいな」
「そのつもりー」
側面に編み込みの三つ編みを施す。
「結衣はシンプルなアレンジしかしないよね。私には結構凝ったのやるけど」
結衣の髪を見ながら言う。確かに結衣は、後れ毛を出した簡単なお団子しかしていない。
「えぇ?だって時間かかるし。私が凝ったのやったところで…みたいなとこあるし」
「もったいないなー」
「何がもったいないのっ…と、はいおっけー。浴衣着てくるから待っててー」
「ありがとーう」
浴衣で着付けをするのは大変なので、洋服で着付けをしていたのだ。ささっとこなし、籠バッグにスマホと財布を入れた。
「れっつごー!」
ーーー
地元では大きな夏祭りなだけあり、かなり混雑している。
空は暗いが、屋台が道に沿ってずらりと並んでおり、屋台の明かりや熱で、夏祭りらしい雰囲気が出ている。
「りんご飴食べたい!行こ!」
人混みをものともしない玲奈は、結衣の手を掴みずんずん進んでいく。
途中、女の子ばかりの人集りにぶち当たる。
皆瞳をハートにしており、一点に視線が集中している。
通り過ぎる時、横目で人物を確認すると、予想通りの人達がいた。
生徒会役員。しかもフルメンバーだ。
結衣は見なかったことにしてりんご飴を買いに行った。
「相変わらず硬いけど…美味しい」
流石にあの人混みでは余裕がなく食べれないので、近くの公園にいる。
「いちご飴も結構美味しいよー」
いちごを1つ玲奈にあげる。至極幸せそうな顔をしている。玲奈のモテる理由はここにある。
「あれさぁ…」
玲奈は左を指差す。そちらをみると、人混みが苦手そうな弟と共にいる瀬田さん、河野さん、菅野さんがいた。
再び見なかったことにしたが、ばっちり健人くん目が合ってしまい、駆け寄られてしまった。
「結衣さーん!!」
子供の視力は恐ろしい。
「へぇ〜、兄弟だったんですね!」
ふつうに会話している玲奈。私はいついじめにあうか震えているよ。
「結衣さん、それ何?」
「いちご飴だよ。食べる?」
「いいの!?」
目をキラキラと輝かせ、笑顔でいちご飴を受け取る。
「あ、すまない。払う」
会長に気づかれてしまった。
「大丈夫ですよー。健人くん美味しい?」
「うん!美味しい!」
「そ、そうか?」
慌てている会長は珍しいのでしっかりと目に焼き付ける。
「結衣さん、妹だけど面倒見いいんだね」
「兄がアレなんで…」
「あー、そっか。そうだね」
何か納得した様子の河野さん。想像していた以上に、よく笑うようだ。
「いつの間に関わりあったの?」
玲奈は不思議そうにしている。確かに結衣は目立つのを嫌うため、人気者である生徒会役員とは関わりを持たないつもりだった。
「んー、兄とか偶然とか偶然とか偶然とか…」
「変なところで運発動するもんね…」
昔から結衣は、四葉のクローバーを見つけたり、トンボが指に止まったり、不思議な運があった。
「お?実丘の生徒会じゃん」
暗闇から現れたのは、3人の男性を引き連れた男性。おそらく高校生であることは結衣にもわかる。
「貴様らか…」
どうやら会長は知り合いのようだが、敵意がむき出しである。
健人くんはあまりの怖さに結衣の手を掴んでいる。
「どなたですか?」
小声で河野さんに問いかける。
「隣の駒井高校の生徒会だよ。文化祭の日とか被ってるからよく敵対してる。菅野もウマが合わないからあの通りだよ」
あの通り?と思い菅野さんを見ると、めちゃくちゃガンを飛ばしている。猫の威嚇を連想させる。
あまりに何か引き起こしそうなので、スマホで録音を始める。
「おやぁ、あんなに女嫌いの君たちが関わるとは珍しい。何をしたんだい?色目か?いや、片方はともかく君には無理か」
明らかに結衣を煽っている。
いくら顔が良くてもここまで煽られては気分が悪い。
今にも噛みつきそうな玲奈をなだめておく。
「そのような発言は控えてくれ」
「図星なのかい?流石、不良の菅野を引き連れているだけあるな」
なんの反応もしない結衣を諦め、煽りに弱い菅野さんに標的を移したようだ。
「うるせえよ」
今にも殴りかかりそうだが、動いていない。
「お腹空いたのでたこ焼き買いに行きましょ」
呑気なことを言っているようだが、とりあえず逃げたいだけだ。あほ役を買って出たのだ。
「ぶはっ可愛くねえくせに食い意地張るのかよ」
最後まで煽られるがガン無視。
「失礼します」
一応頭を下げて、玲奈と健人くんの手を引いていく。河野さんはナイス、とで言いたげにウキウキしているが、菅野さんと会長は渋々付いてくる。
適当なところでスマホの録音を止めておく。
本当にたこ焼きを買い、別の公園で食べることにした。
「お腹空いてるとイライラするって言いますし、あの人お腹空いてたんですかね〜?」
「そうかもねー。あっつ!!!!」
できたてのたこ焼きを一口でいったらしい。近くの自販機で水を買い、渡す。
「ありがと、熱すぎた…」
玲奈は涙目で、水をがぶ飲みしている。
菅野さんはこちらをじっと見つめる。
「どうかしましたか?」
声をかけると、慌てて目をそらす。
「…お前強いな」
「言ったじゃないですか。弱くないんです。録音したけど意味なかったなあ」
「録音までしてたの?」
河野さんは目を丸くする。玲奈は慣れているので変わらず頑張ってたこ焼きを食べている。
「はい。基本怪しい時は録音します」
「へー。俺もそうしよ」