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5-弱くない

体育祭という一学期の大イベントが終わり、残るは期末考査といったところ。


結衣は日直で、溜まったゴミを捨てに、体育館横のゴミ捨て場に来ていた。


紙臭いゴミ捨て場に捨て、空になったゴミ箱を持って外に出た。


「おー、そこの…菅野のお気に入り」


明らかな敵意を持った3人組。ネクタイを見る限り、おそらく高2だろう。

ポケットに入ったスマホを起動し、録音を開始する。


「…違いますが、なにかご用が?」

「チッスカしてんな。そんな可愛くもねえお前がどうやって取り入ったんだ?」

「なにもしていませんよ」


結衣は本当になにもしていないので、彼らの望んだ答えは返ってこない。

ジリジリと距離を詰められるので、一歩、また一歩と後ろに下がる。


「おい逃げんなよー、俺のおもちゃになるんだよ」


指をパキパキと鳴らし、気持ち悪い笑みを浮かべる。

ぐっと踏み寄り、容赦ない拳が結衣を襲う。


結衣は尻餅をつく。見ていた2人も加勢し、制服で見えない部分に蹴りを入れる。

殴る蹴るを黙って受け続けた。

結衣は知っていた。ゴミ捨て場の前に、監視カメラが設置されていることを。おそらく、この全てが録画されているだろう。


昔、生徒会の捨てたゴミを漁られた事件が発生し、以来カメラがつけられていると聞いた。


「チッなんも反応しねえ。つまんねえの。それとも」


奴らは結衣の制服に手をかけた。


その時、足音が近づいてきた。


「何してるんだ、お前、ら」


現れたのは、生徒会の役員の1人。萩原咲也さんだ。


萩原さんの目に写っているのは、男3人に、服に手をかけられ拒否している結衣の姿。


「おい、その子から離れろよ。学校で盛るな。そもそも非合意だろ」

「チッ戻るぞ」


3人は散っていった。

残るのは萩原さんのみ。

迷わず萩原さんは手を差し出した。


「大丈夫?未遂だよね?」

「大丈夫、です」


1つ咳をして、ありがたく手を貸してもらう。


はしたなく空いたボタンを留め、スマホの録音を止める。そしてゴミ箱を回収した。


「怪我は?」

「いっぱい蹴られちゃいましたねー」

「え、大丈夫?」

「問題ないです」

「絶対嘘、保健室行くよ」


腕を掴み、ぐいぐいと引っ張られる。

掴んでいるところが実は痣でめちゃくちゃ痛かったが、何も言えなかった。


「本田先生ー、怪我人ー」

「え?萩原くん?怪我人?」

「ほら、西川さん」


いつ名乗ったっけ。などと考えているうちに本田先生の前に押し出される。


「ゴミ箱、教室に返してくるから」

「あ、すみません、ありがとうございます」


頭を下げる。萩原さんはいーのいーのと手をひらひらし、去っていった。


「で、怪我だっけ?」

「ちょっと体育祭で恨みを買ったらしくいじめられちゃいました。ってことで、痣の写真撮ってもらっていいですか?」

「え、いいけど…」

「現場がゴミ捨て場前なんで、カメラありますよね?」

「ええ、あるわ」

「そして、私のスマホには録音があります」


察した本田先生は、写真を撮り始める。


「そういうことね。この学校にもいじめはあるのね」

「あの3人だけが治安悪いだけだと思います」

「なかなか言うわね」


そのまま湿布を貼ってくれる。ひんやりして気持ちいい。


「ちょっと、生活指導の先生呼んでくるわ。善は急げ、ね」

「ありがとうございます」


本田先生が保健室を出て数分。中野先生を連れて帰ってきた。


「本当か?2年の生徒に暴力を振られたと聞いたが…」


強面の割に、優しい声だった。




「ゴミ捨て場前で、高2の男3人組に暴行、録音もあるし、証拠は十分。停学処分だが、なにか言いたいことはあるか?」

「いえ、異存ないです」


監視カメラにより、3人組は特定された。いいところのおぼっちゃまだそうだ。


「あ、私の方は匿名でお願いします」

「当たり前だ」


コンコン、と良いタイミングでノックが響く。

入ってきたのは、萩原さんと玲奈、そして菅野さん。


「あれ、菅野さんも?」

「俺が呼んだ。西川さんって確か、借り物競走で菅野が借りられてたから。それで恨み買ったんでしょ?」

「え、あ、はい」


記憶力の良さに驚きつつ肯定する。


「お前に被害が及ぶとは思ってなかった、すまねえ」

「大丈夫ですよ。私は弱くないので」

「いや、女の子なんだから男3人相手したら弱いでしょ」


正論を言われ、言葉に詰まる。


「そりゃそうですけど…結果、あの人たちは停学ですし。そうですよね?」


中野先生に話を振る。あ、ああと困惑しながら肯定してくれた。


「流石に服に手が伸びた時はびびったけどまあ」

「聞いてないんだけど!?本当!?」


玲奈は激昂する。結衣は呑気にいい友人を持ったなあ、などと思う。


「それは本当だよ」

「そいつらぶっ飛ばす…」

「菅野さんへの恨みがこっちに回ってきたらきついんでやめてください」

「それができねえほどぼこぼこにしたらいいんだよな?」


菅野はこの世の終わりを疑うレベルで悪い顔をしている。


「なんでそうなるんですか。危ないことはやめてください」


玲奈が怖がる中、さも普通そうに言い返す。菅野は、ハッとした顔をしている。


「さて、そろそろ下校時刻を過ぎる。帰りなさい」


中野先生の一言でお開きになった。



翌日に停学を言い渡され、翌々日からは来なくなり、1週間後に転校したらしい。


いいところのおぼっちゃまのせいだろう。親の会社に悪影響を及ぼす前に去っていった。


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