作戦会議の続き
ランスロットの話はこうだ。
トリスタン王の妹君から、告白されていて、
『ヴィエラ山脈の辺境地へ行くなら自殺してやる』
と脅されていたのだった。
ランスロットも王の妹君でなければ、実力行使もできたのだが、侍女や執事達も押しかけており、どうしようもないとランスロット自身も思考停止になっていたようなのである。
その結果として、2時間経過しても遅刻の報告ができなかったようなのだ。
「報告もできず、すみませんでした。」
ランスロットが、また謝罪をしている。
そんな、トリスタン王の妹であるアイーシャが、泣いてわめいている所を、ランドルフが強引に引き離し、ココに連れてきたのだった。
「やっぱり、ここの貴族連中は、とんでもないのが多いな・・」
「トリスタンには、こちらから頼んでおく」
「妹のアイーシャが、ランスロットに付きまとって大変だと」
早速、伝書鳩に手紙をつけて、トリスタンの所に送り出した。
ややこしい問題が起きてしまっている。
これが解決できなければ、全員揃っての移動は不可能となる。
「まったく、ストーカーかよ」
と思ったが、口には出さなかった。
そんな事を言った日には、メグミから何を言われるかわからないからだ。
強い愛情とストーカーは、紙一重の部分も見え隠れするからである。
女性のこのような強力な感情は、男性では理解不能な場合もある。
恋をすると、女性は強くなる。
17歳の女の子の場合は、初恋だってことも有りえる。
「まぁ、遅刻の原因がわかってよかった」
・・・(と思っておこう。)
「ヘッ。ヘッヘ。いい仕事をしたでしょ」
ランドルフが、軽口を叩いている。
ランスロットは、それを聞いて、下を向いている。
色々なことについて、反省しているようなのだ。
「ランドルフ。グッジョブ!」
ランドルフをちゃんと誉めておいた。
ランドルフもやればできるのだが、適材適所の部分がある。
こういった場面では、ランドルフの無神経な性格も上手に活用できる。
「ありがとうございまーす」
ランドルフも、まんざらではない様子。
この辺りは、わかりやすくて好きな部分である。
「それは、それは、災難でしたなぁ。ふぉふぉふぉ」
ウォーレンも呆れて笑っている。
メグミについては、ちょっと真剣な顔をして考え込んでいる。
オストマルク王国の貴族は、結婚をしていないとスグに結婚の申込みをしてくる。
特に、英雄などと崇められる立場になると、それが酷くなるのだ。
この国では、一夫多妻も普通であり、結婚していなければバンバン、プロポーズをしてくるのだ。
または、お見合いの書状や、婚姻を促してくる書状を送り付けられる場合もある。
本人だけならまだしも、親や親戚、はたまた王室など、使えるところを使って、結婚の要請をしてくるのでたまったモノではない。
私も、こんなに求婚されるのが嫌になり、メグミと結婚した経緯もある。
結婚をした今でも、隙を見て、第二夫人にして欲しいと、近寄ってくる貴族の女どももいるのだ。
貴族の女は、少しでも待遇のいい所に嫁に行こうとするからだ。
本当は、貴族と言っても世間体を気にしている貧乏貴族ばかりのようである。
ここ、オストマルク王国では、その傾向がとても強いように感じる。
本当は、ランスロットには、先発隊の隊長として行って欲しかった。
でも、そんな事情があるのだったら仕方がない。
普通の人ならば、王の妹から求婚されたら、どうしようもない。
下手に動かなかったことが、正解だったのだろう。
アルフォンスには悪いが、ランスロットが次のリーダー格の人材なのだ。
そのことは、心の中にしまって、笑顔で対応をしよう。
今回は、ランスロットには、留守番をしてもらおう。
ランスロットの件で止まっていた、作戦会議の報告をメグミから聞くことになった。
それは、驚くべき内容だった。
結論から言えば、エルフとドワーフを各10名雇う提案だったのだ。
「この際、エルフとドワーフを10名ずつ位、新しい村に来てもらえばいいんじゃなイ」
「もう、エルフの里とドワーフの国には、書状は出し終わっているワ」
「ハッ、ハイー?」
ちょっと取り乱してしまった。
「ソッ、そうか、ありがとう。流石の提案だ」
ゆっくりと、返事をして、目を閉じて頷いた。
それは、焦ったことを誤魔化すためでもある。
リーダーとしては、何でもカンでも、すぐに驚いていることを見せてしまっては、威厳を無くしてしまう。
焦って、ビビったことを、相手に見せないのも、リーダーとしては、侮られない為に大切なのである。
「確かに、人・モノ・金が重要だ」
「手先の器用な部族が、技術を持ったまま、現場に入ってくれれば、それ程心強いことはない」
と言ってはみたものの・・。
「ちょっと提案が、本質過ぎてビックリしたよー」
とは言えなかった。
「一から、内政活動をしようと思っていたが、そこまでしなくてもよかったのね・・」
すでに、エルフの里とドワーフの国へ手紙を出しているとのことで、二重に驚いたのだった。
忘れていた。
メグミの職位は、大賢者だったのだ。