作戦会議
オストマルク王国の王都に戻ってくると、まだ残ったメンバーで作戦会議をしていた。
様子を見ていると、メグミとウォーレンを中心に、真剣に話し合いをしている。
議論は、白熱しているようであった。
「この話は、これで上手く行きそうですかな」
「私は、それがいいと思うワ」
ドアを開けて戻ってきた事を伝える。
「ただいま戻ったよ」
「お帰りなさい」
「お疲れ様でした」
と皆が出迎えてくれる。
「まだ、ランスロットは顔を出さないのか?」
「そうなの。まだ連絡も取れていないノ」
「問題ですな。どうしましょうか?」
「うーん。困ったな」
ウォーレンも流石に心配をしている様子だ。
すでに集合時間から、2時間以上経過していた。
流石に、朝寝坊は考えられない時間となっている。
絶対に、おかしなことになっていることが想像できる。
「お昼休憩にするから、ランドルフは、ランスロットを探しに行ってくれないか?」
「ハィッ。わかりました♪」
ランドルフは、返事をすると軽快に走っていった。
なんとなくランドルフの考えが読めている。
ランドルフは、緊張する作戦会議などが、好きではないのだ。
別の言葉でいえば、鬱陶しくなっていたのだが、その場から上手く理由ができて、『逃げる』ことができたのだ。
ランドルフ・オブライエンは、ソードマスターの40歳の男性だ。
金髪なのだが、なんとなくモテそうな顔ではない。
身長は188㎝と大柄なのだが、いい年なのに、結婚もしていない。
彼女も・・、いそうにない。
決して、女が嫌いなワケでも、男が好きなワケでもないので、そこは安心してもらいたい。
ただ・・、普通の女性からは、モテないだけである。
もともと、勇者召喚時の従者として採用されていた、貧乏貴族の三男坊なのだ。
本来ならば聖騎士としてパラディン職になることが普通なのだが、魔法が一切使えず、剣に生きることになった。
本人としては、贅沢のできる王都での暮らしも良いが、親戚からバカにされるのも嫌なのだろう。
トリスタン王に頼めば、王都での士官も十分可能なはずなのに、それをしなかった。
器用ではないが、辺境地にも付いてくるので、忠誠心はあるのかもしれない。
「休憩。休憩」
これを言わないと、いつまでたっても作戦会議をしているかもしれない。
クールダウンをさせるのも上司の務めなのだ。
人は長い間、集中して仕事をすることが難しい。
上手に休憩を与えながら、仕事をしなければ、キャパオーバーをしてしまうこともある。
気分転換も大切なことなのだ。
休憩ついでに、トイレの方に向かった。
そして、トイレに行ってから、手を洗っている。
このオストマルク王国は、ちゃんと上下水道が通っているのである。
「やっぱり、上下水道は必要だな」
私の記憶が確かなら、中世ヨーロッパは下水の処理ができてなく、道路に糞尿を垂れ流していたようなのである。
あまりにも臭いので、香水が流行ったと伝え聞いている。
ここは、異世界なので、中世のヨーロッパと似ているようではあるが、まったく違う別の世界なのだ。
やはり、オストマルク王国は、都市機能として、この世界の上位のランクになっている。
まだまだ、この世界では、発展途上の村や町も多い。
この辺りの都市機能については、オストマルク王国は流石である。
昼ごはんは、メグミが会議の邪魔にならないように、サンドウィッチを全員分つくってくれていた。
バターが塗られている卵サンドがメインとなっている。
「いただきます」
「うん。美味い」
メグミは料理についても、上手である。
流石に、料理人には負けてしまうかもしれないが、遠征時にとても重宝した。
サンドイッチは、会議時や携帯用としても有用である。
軽食であるサンドウィッチを頬張りながら、会話をする。
「領地経営の方向性と具体案は進んだかな?」
サラッと重要なことを聞いてみる。
すると、
「バッチリです」
と返事がある。
サンドウィッチをゴクリと呑み込むと切り出した。
「では、聞かせてくれないか?」
と言った時、ランドルフはランスロットを連れて帰って来たのだった。
「ギー。バタン」
「遅れてすみませんでした」
開口一番、頭を下げて謝ってきた。
◇◆◇◆◇
ランスロット・パウエル。
金髪の30歳の男性であり、シールダーの役割を担っており、守備力が極めて高い。
身長は、高めで185㎝となっている。
レベル40のクラスアップを行った後、レベル50になると勇者のアイコンが出てしまったのだ。
なんと、この世界の普通の住人から、勇者を排出してしまったことになる。
異世界人ならばわかるのだが、守備も攻撃もできる本当に珍しい例なのだ。
性格もシールダーらしく、質実剛健としており、内に秘めた力は相当なものがある。
第二回の魔王討伐の際には、私と一緒に行動し、最前列で魔王を倒したのだった。
彼がいなければ、魔王を倒せたかわからない位だ。
まさに鉄壁と言っても良い高い能力を持っている。
このパーティーの壁となってくれる貴重な人物なのだ。
「何かあったのか?」
「そっ、それは、・・」
すると何があったのか、包み隠さず話してくれたのであった。