食堂のオープンテラスにて
夕食を食べに、メグミと一緒に、食堂へ来ている。
メグミの機嫌は、良いようだ。
【ディアトリマ】討伐では、魔法をほとんど使わず、杖でブッ叩いて、何匹もの【ディアトリマ】を戦闘不能の一歩手前にしていたからだ。
ストレスを上手に発散できていたようなのだ。
それと、麓の村の住人の移動が、本格的に開始したこともある。
数字の結果が出てくると、嬉しいモノなのだ。
食堂を任せているドワーフのギャビーは、せわしなく【ディアトリマ】の解体の仕事をしている。
今日、届けた【ディアトリマ】の処理が、いっぱいあるからだ。
夕食の準備をした後に、【ディアトリマ】の解体と下処理で、てんてこ舞いとなっている。
前回同様、ドワーフのヒッキーやスイフトも手伝っている。
麓の村から老婆は10名に増えており、前回来ていた5名は、ずいぶん慣れてキビキビと動いている。
他の5名は、少し驚きながら、裏方の処理の手伝いをしている。
「うん。うん。よく働いているわネ」
「今日も、【ディアトリマ】料理かー」
【ディアトリマ】が、この村の特産品にもなりそうである。
そして、【ディアトリマ】の討伐をしたところなので、仕方がない部分も多い。
食料問題の解決まで、時間はまだまだ掛かりそうである。
「ギャビーのつくってくれた【ディアトリマ】のレモンバターソテー。これは美味い」
「このレモンバターソテーは、サッパリして美味しワ」
「このサッパリは、たまらないな。こう何日も【ディアトリマ】ばっかり食べているのに、止まらないな。そして、この優しい味のスープのいい」
「そうね。うんうん。この食堂をつくったことは、大成功ネ」
スープを飲んでホッコリしていると、外が騒がしい。
「ガヤガヤ、ガチャン、〇△◇、ハッハッハー」
どうやら、緑ゴブリンが、どんちゃん騒ぎをしているようだ。
「うーん。困ったな」
「これは、ちょっと騒ぎすぎネ」
宴ではないのに、どんちゃん騒ぎは許されがたい。
「これは、規律違反だな」
「そうね。ちょっと、お仕置きが必要なのかしラ」
緑ゴブリンが、食堂に併設されているオープンカフェで食事をしている。
「ワイワイ。ガツガツ。キャッキャ。キャッキャガッシャン。ゴロンゴロン」
「あーあ。やっぱりな。これじゃ、ヴェロニカも怒るはずだ。そして、アリエルじゃ、とても躾はできないな。一発かますか」
机から立って、オープンテラスへ歩き出した。
「おい!ゴブリンども!うるさいぞ!」
「躾がなってないなら、力づくで黙らせる!さっさと黙れ!」
オープンテラスに出て、注意をしたが、言葉が理解できないようだ。
「ワイワイ・ガヤガヤ、◇▼※✖」
「良く聞け!忠告は、したからな!」
早速、【威圧】のスキルを発動する。
「バタ」「バタ」「バタ」「バタ」
1,300名近くの緑ゴブリンが、一斉に倒れてしまった。
【奴隷紋】の魔法アイテムを使用しても良かったが、【威圧】のスキルを利用した。
しっかりとした躾けが、必要と考えたからだ。
「ゴブリンごときに、なめられたモノだ・・」
いくらなんでも、ゴブリンですら統制が取れないようであれば、村としても当然失格となる。
ここは、領主として、最低限守らせる『規律』が必要であると考えたのだ。
ヴェロニカとアリエルとゴブコと伍長が駆け寄っている。
「フー。どして、こんなことになったの?」
「ごめんなさい」
「すみませんでした」
「申し訳ございません」
アリエルとゴブコと伍長達が、ヴェロニカに謝っている。
緑の躾けが、できていなかったからだ。
「まぁ、まぁ、大目にみてやって・・」
ヴェロニカに対して、フォローを入れている。
今まで、散々緑ゴブリンを放置していて、ヴェロニカに負担をかけていた。
今回、自分達の力不足を感じたに違いない。
緑ゴブリンのほとんどが気絶したり、身動きができない状態となっている。
「これで大人しくなるだろう。2日もすれば、ホブゴブリン達も戻ってくる。ほとんどホブゴブリンに進化しているから大丈夫だ」
2日間、ホブゴブリン達を待っていれば良かったのだが、『領地経営』をするのに、余計なことに時間を取られるのはマイナスでしかない。
ゆっくりと時間をかけて教育をするのも有りなのだが、チンタラとやっていると、時間がいくらあっても効果が出ない。
まして、こちら側のストレスも溜まってしまうのだ。
「私も聖人君主ではない。ヴェロニカ達も、ゴブリンに対しては、聖女のような対応はしなくていい。このまま、ただのゴブリンのままならば、あくまで奴隷だ。風紀を乱すようならば、もちろん取り締まらなければならない」
「わかりました。ありがとうございます」
ヴェロニカとアリエルとゴブコと伍長は、感謝をしているようでもあった。
何でもかんでも、ニコニコしていれば、いいという事ではない。
舐めてくる相手には、しっかりとお仕置きをしなければならない。
力を見せなくてはならない時は、力を使う必要がある。
『領地経営』や軍隊となれば、もちろんである。
「今後、この隊に入る場合は、【威圧】スキルを使ったほうがいいかな?」
「そうね。相手を見て、【威圧】スキルを使う必要がある相手には、使う方がいいんじゃないィ」
「うーん。できれば、強制的には、使いたくなかったんだけどな」
「そうも言っていられないみたいよ。ヴェロニカちゃん達も困るでしョ。ゴブリンちゃん位ならば、知能が低いから仕方がないんじゃないィ」
理想と現実は違う。
『領地経営』では、領地内の『規律』については、当然重要である。
核戦争が起こった後の世紀末のような、無法地帯の領地にするつもりはない。
緑ゴブリンがいるのならば、ゴブリンの教育問題は、どうしても付きまとう。
この問題を解決しないことには、領地の発展は有り得ないのである。