エルフのヴェロニカの実家にて
はじめに予定していた訪問地が、ヴェロニカの実家だったので、ヴェロニカがエルフの里もついでに案内してくれている。
「久しぶりだけど、あまり変わっていないみたい。あそこのお店の食べ物もおいしいわよ」
私の記憶についても、エルフの里については少し曖昧だった。
そのため、エルフの里の案内までしてくれている点についても、ヴェロニカを連れて来て調度よかった。
8年ぶりのエルフの里も、それほど変化はなさそうだ。
エルフの里には、新規のエルフの勧誘の為に来ている。
ただし、ヴェロニカの問題を解決せずに、エルフの新規勧誘など、もっての他となる案件なのだ。
ヴェロニカの実家は、エルフの中でも貴族クラスのようで、周りと比べると立派な感じの家である。
「あいかわらず、幻想的で立派なお屋敷だな」
素直な意見が口から出てきている。
「そうね。幻想的なお屋敷ネ」
メグミについても、同意見のようであった。
ヴェロニカの実家の中に入ると、ヴェロニカの兄弟姉妹も多数おり、賑やかな家庭となっている。
結婚をした兄や姉達は、すでに別宅を構えているようである。
エルフであるヴェロニカの父は、自宅で仕事をすることが多く、魔法の研究や薬草の研究をしているのだ。
実家の隣にも大きな離れが数個あり、事務所や、寝室用の離れもあるようだ。
たまに、自由都市のコルテスに体力を回復させるポーションなどを売却することがあるようなのだが、詳しいことはわかっていない。
「おかえりなさい。ヴェロニカ」
「おかえりお姉ちゃん」
ヴェロニカの母親や弟や妹が、玄関に出てきて、各自が挨拶をしてきている。
8年ぶりの再会なので、兄弟姉妹でも、やはり嬉しいようなのだ。
だが、ヴェロニカの父親が家の奥から出てくると、雰囲気が一気に変わった。
「ごっほん・・。ちょっと応接間に通しておいてくれ」
応接室に通すように父親が指示を出し、何やらごそごそと準備をしている。
私とメグミとヴェロニカの3名は、応接室に入ってお茶を飲んでいる。
チラチラとヴェロニカの弟や妹が応接室を覗いているが、気が付いた父親から怒られている。
「元気そうで、なによりだ・・」
ヴェロニカの父親と母親が部屋に入ると、ヴェロニカの父親が、開口一番にそう言った。
「もう、かれこれ8年になるのか・・」
ヴェロニカの父親も8年間会えなかったことについて、やはり寂しかったようである。
どうもヴェロニカの顔立ちは、父親に似ているような気がする。
「以前は、勝手に家を飛び出してしまい。すみませんでした」
ヴェロニカの方は、淡々としていて、家出をしたことについて詫びている。
ヴェロニカは8年間の間に、しっかりとした大人の女性となっていたようである。
なんとか、長い時間によって、仲直りができたようだ。
ヴェロニカの許嫁が、ヴェロニカが家出をしたことで、婚約の破棄を言い出したなど、8年の間にも色々なことがあったようだ。
だが、もうヴェロニカの父親は、ヴェロニカに家に帰って来て欲しいなどとは言わなかった。
そんな事を言っても無駄であると、時間をかけて理解をしたのである。
ただし、結婚や交際について、どうなっているのかだけ、ヴェロニカに聞いていた。
「結婚はしているのか?」
「結婚はしていません」
「では、お付き合いをしている人はいるのかな?」
「・・そういったお付き合いをしている人も、残念ながらいません」
エルフが人間と結婚すると、その子供たちはハーフエルフとなるのだが、どうしてもエルフからも、人間からも差別の対象となることが多いようだ。
そのため、エルフ側では、あまり人間の国へは行かせたくないようになっている。
「ヴェロニカちゃん、本当なの?本当に人間とはお付き合いをしていないの?」
この点については、ヴェロニカの母親も同感であり、とても心配をしているようなのだ。
どうも、ヴェロニカの母親の姉が人間と結婚したらしく、その娘達が差別されていることを知っていたからもある。
また、エルフと人間の寿命には、大きな差があり、人間はすぐに亡くなってしまうことも気がかりのようなのだ。
「お付き合いもしていないし、結婚するような相手もいないわ。でも、当分はこっちに帰ってくる予定もないの」
ヴェロニカは、今のところ交際相手もおらず、結婚する予定が無いことを伝え、当分は人間の世界で暮らしたいとも伝えていた。
「それなら、ヴェロニカについては、問題はないな」
ヴェロニカの両親はお互いに頷いている。
ヴェロニカについては、両親共に人間の世界で暮らすことについて異論はないようである。
今回の問題となったのは、人間の国に行ったヴェロニカの妹のアリエルについてだった。
「実は・・、アリエルの方で問題がある・・」
今回、エルフの勧誘依頼を受けた際、アリエルが「人間の国へ行きたい」とヴェロニカの父親に言い出したので、家族で困惑しているようだったのだ。
ヴェロニカに続いて、アリエルまで、人間の国に行ってしまうことは、許すことができない様子である。