二日酔い
予想はしていたが・・、酒の飲み過ぎで、二日酔いになっている。
「ヤ・・ヤバイ」
「オッ・・オェ・・」
胃がムカムカして気持ちが悪く、頭はクラクラ、動きはヨロヨロとしている。
ちょっと大きな声は、カンベンして欲しい。
大学生の新歓コンパ後みたいな状態になっている。
完全に許容量をオーバーしたようで、羽目を外し過ぎたと後悔している。
「メグミー。ごめん。ちょっと二日酔いしている」
「大きな声は出さないで・・」
「ウン。わかった・・」
宴はワイワイして楽しいのだが、酒に強いワケではないのだ。
実際、宴の最中、トイレで1回吐いている。
宴では、気分が大きくなって、飲み過ぎたのだ・・。
ゆっくりと水を飲んで、周りを見返してみる。
メンバーは、一人を除いて、すっきりとした表情で、宴の後片づけをしていたり、朝食を食べてたり、 ゆったりとくつろいでいたりする。
「酒を飲んでも飲まれるな」
この言葉は、格言である。
酒を飲むことは禁止されないが、仕事でも何でも、二日酔いで出てこられたら、迷惑以外のナニモノでもない。
それは、【クエスト】であろうと、『領地経営』であろうと、一緒である。
一人だけ姿を見せないメンバーがいたのだ。
朝が終わり、昼になっても、そのメンバーはテントから出てこない。
「やっぱりな・・」
昼まで寝坊をしているメンバーは、予想通りランドルフだった。
このお調子者は、ジョッキ何杯ではおさまらず、酒樽ごと丸呑みしていたのだ・・。
死んでいないか、テントの中を確認して、ただの二日酔いであることがわかった。
いつも迷惑をかけるのがランドルフという人物なのだ。
この貧乏貴族の三男であるランドルフは、このメンバーの中では、一番最初に仲間になったメンバーだ。
同時期・同場所にて召喚された残り4名の勇者と、その従者達は、魔人にすぐ殺されてしまったからだ。
調子にのった弱者が、いきがって行動をすると、このような結果となる。
ちょっとレベルが上がったり、弱い敵を倒して無双をしていたので、勇者は無敵だと勘違いをしてしまったのだ。
私だけは、瀕死の状態であったが、何とかギリギリ命だけは助かったのである。
とっさの判断で、魔人から逃げることを選択して、最終的に死なずに済んだのだ。
私の初めの従者も殺されてしまい、その代わりに補充された従者がランドルフである。
ランドルフは、おっちょこちょいで、弱そうなところもあり、初回の従者メンバー選考から漏れていたようである。
いきなり魔人にやられてしまうようなヘボ勇者だったので、補充される従者として調度いいと先王の判断のようだ。
あれから13年、お互いよく生きていたモノだ・・。
ランドルフも私も、もともと弱かったからこそ、たとえ『弱虫』とバカとされても、自分達より強そうな敵とは戦わないように徹底したのだった。
何とか戦力やレベルが上がるまで、上手に逃げてこれたのかもしれない。
最終的には、偉大なる勇者と呼ばれるようになっていたり、勇者パーティーとして認識されるようになったりしているので、何が正しいかは、後からしかわからないようになっている。
勇ましいだけが、全てではないのである。
新しく優秀な仲間がドンドン入って来て、今のポジションに落ち着いている。
「ランドルフは、別に上を目指すワケでもなく、もともとは惰性で生きているような人間だったのだ・・」
「私とかかわることになるまでは・・」
「さぁ、起きろ!」
昼になったので、ランドルフを叩き起こし、ゴブリンの調教の為に、村へ連れて行く。
ゴブリン達は、すでに立っているのが厳しい状態になっていた。
午前中は、翼人のアルフォンスが、最後の鍛錬をしている。
ゴブリン達は、死にそうな面をしている。
「ランドルフも、同じように青い顔をしている・・」
「おいおい・・」
ランドルフが遅刻の為、今日の午前中までアルフォンスが指揮をしていた。
昼からは、ゴブリン隊はランドルフの指揮下に入る。
ただし、警備隊と土木作業員の任務が、ほとんどであり、アルフォンス達が直接指揮を取らないだけなのだ。
アルフォンス達は、軍隊ができれば、そちらを指揮することになっている。
戦いが始まったりすれば、当然として警備隊なども軍事部門の指揮下となる。
ランドルフに挨拶をさせて、当面は様子を見る予定だ。
アルフォンスやフィガロの特訓を受けて、少しは警備隊らしくはなっている。
ただし、ゴブリンが訓練で全滅してしまうことは違う。
当面は、戦争などの軍事活動の予定もないので、警備や土木作業などの内政活動の手伝いが主な任務となる。
もちろん、近隣の雑草の除草や開墾なども、やらせることになる。
ただし、ゴブリン達の食糧などは、ランドルフとゴブリン達で用意するようにさせた。
そこまでの面倒は、みないことにしている。
何でもわけ与える事ではなく、しっかりと自立させることが大切だからだ。
まぁランドルフも、あんな感じなので、気楽な感じになるはずだ。
それが、地獄の訓練を終えたゴブリンへの褒美である。