ゴブリンは土木作業員も失格?
ゴブリンは、土木作業員として、落第寸前だった。
昨日、斬撃で伐採した木を集める作業をさせても、全員ダラダラしている。
「作業の進行も、全然進んでいない・・」
「コラー。しっかりやれ―」
「どうした。動け!」
アルフォンスとフィガロも大きな声で叫んでいるが、ノロノロと動いている。
「○▽◇※×」
ゴブリンも何か言っているようではあるが、何を言っているのかわからない。
様子を見ていると、目が死んでいて、完全にキャパオーバーとなっている。
もう動けないのかもしれない。
どうも、昨日の挨拶・筋トレや村の復興作業で、ほとんどの力を使い果たしているようだ。
さらに、村から作業現場までの移動で、疲れ果ててしまっている。
【鑑定スキル】を使って見てみても、どのステータスも、低いままで、ほとんど回復していない。
「【威圧】のスキルの影響も、まだ出ているのだろうか?」
焦点が定まらず、うつろな感じのゴブリンもいる。
「ハー・・。弱い。弱すぎる」
肉体面も精神面も弱く、やっぱり普通のゴブリンであり、皆から言われていた通りのような気がして、悲しくなった。
このまま潰れても仕方ないので、全員に回復魔法をかけることにした。
それでも、全回復とはいかないようで、まだ動きが悪い。
HPは回復しているが、MPとSPが枯渇しているようにも見える。
「もともと少ないダケかもしれないが・・」
MPポーションとSPポーションをヴェロニカに10個づつ渡した。
「すまんが、これを薄めて、ゴブリン全員に飲ませてくれ」
もったいないが、エルフのヴェロニカにMPとSP回復の薬を薬品か水でわって、使用されるように促した。
「わかりました。すぐに手配します」
こんなことなら、自分自身で伐採した木を集めた方が早い。
一瞬で終わらせることが出来る仕事量なのである。
貴重なMPポーションとSPポーションを使用するならば、実質的には大赤字の作業となるので頭を抱えた。
「ゴブリンって、やっぱり使いようがないのか・・」
「それとも、こちらに対して、忍耐力か何かの修行なのか・・」
完全に袋小路の中に入ってしまうような気がしてきた。
見ているだけでイライラしてしまうので、近づかない方がいいのかもしれない。
厳しく躾けなどをして、教育をしようとしてしまう。
犬や猫に飛べと言っても、飛ぶことができないのと一緒かもしれない。
または、ペンギンや鶏に、翼があるから飛べと言っているのかもしれない。
できない子供を持つ親の気持ちがわかったような気がした。
「はい。これ飲んで。体力が回復するから」
ヴェロニカが、薄めたポーション類を全員に飲ませて、回復をはからせている。
アルフォンスとフィガロに訊ねてみる。
「誰かモノになりそうなのいる?」
「そんなのいると思いますか?」
フィガロが、疑問形を疑問形で返してきた。
まぁ、仕方がない。
「見ていただいた通り、誰もいません」
アルフォンスは、即答だった。
愚問だった。
間髪入れずに、誰もいないと返事があった。
「あーぁ」
やっぱりなと思いながら、苦笑いをしてしまった・・。
全員食事休憩もして、完全回復をさせたら、集合するように伝えてある。
そして、全員食事をして完全回復をしたようなので、ゴブリン達の前で演説をした。
「今のままでは、私達は君たちゴブリンを養うことができない。そうなれば、害虫や害獣と同じようなもので、処分・駆除しなければならない。次が最後だ。完全回復させた今、伐採された木を片付けて、整理・整頓できる力を見せよ」
すると、元のゴブリンのリーダーを中心に、ゴブリンどもがキビキビと行動をしている。
午前中とは、別人のような機敏な動きに、アルフォンスもフィガロも驚いている。
「やっとやる気になったのか?」
「あのヤロー共、ワザとか?」
ステータスを全回復させて、死を覚悟させて仕事をさせると、ちゃんと実力を発揮するようである。
『バカとはさみは使いよう』といった言葉もある。
実力を出させるのも上司の仕事のひとつなのだ。
別に、アルフォンスやフィガロが悪い上司なワケではない。
ゴブリンの追い込み方の違いである。
本来は、こんな簡単な仕事は、午前中に終了させる予定だった。
15時と予定よりも時間はかかったが、伐採されていた木は、整理・整頓された。
ギリギリ合格点を与えることが出来るのかもしれない。
「ゴブリンどもは、命拾いをしたな・・」
ただし、私が直接面倒を見るのは、精神衛生上良くないので、早めに適任者へバトンタッチをしよう。
『領地経営』では、誰かに合わせたスピードで、仕事をしなければならない。
ゴブリンがいると、全体の仕事が遅くなる。
だからと言って、ゴブリンの仕事スピードに合わせてしまうと、どうなるだろうか?
そんなことをすると、全ての仕事が滞ってしまう。
スピードが遅いのに、合わせることも必要な場合もあるが、この場合、ゴブリンに速いスピードについてこさせなければならない。
それで、脱落をするのであれば、仕方がないのかもしれないのだ。
『領地経営』も仕事もスピード重視となる。
スピードのないダラダラした仕事など、仕事の内に入らないのである。
さらに、仕事のスピードが遅く、仕事の質も低いなど、モッテノホカなのだ。