ヴィエラ山脈の麓の村
ヴィエラ山脈の麓の村は、滝から西へ5㎞行った川沿いにあった。
「あった。あった。ここかー」
「本当。あそこネ」
ユニコーンに乗って、すぐ側にあった麓の村へ入った。
「やっぱり、キレイじゃないなー」
「うん。そうネ」
貧相な村で、お世辞にもキレイとは言えない状況だ。
貧しそうな格好の村人も、チラホラ見受けられる。
「うーん。何か、色々とまずいな」
「そのようネ」
さらに酷いのは、ゴブリンからの襲撃により、町のいたるところが、壊れているところかもしれない。
「村から移住してもらって、新しく作る村に来てもらった方がいいかな?」
素直な感想が、口から出てきた。
「まっ、村人に聞いてみないと、どうするかは分からないがな」
「そうネ。ゆっくり考えましョ」
メグミが、こちらを見ながら返事をしてくれている。
7年前に250人だった村人は、189人に減っていた。
普通ならば、ここまで村人が減ってしまうことはないのだが、色々と不幸なことが重なってしまっていた。
ゴブリンの襲撃で、死傷者が出たことや、オストマルク王国の別の村に移動してしまったものもいる。
【索敵スキル】と【鑑定スキル】でパッとみたところ、それほど戦闘能力が高い人間もいない。
ごくありふれた過疎の村なのだ。
「そら、そうだよな。戦闘能力の高い兵士がいれば、こんなことにはなっていないよな」
【鑑定スキル】を発動させれば、相手のレベルやスキル、そしてパラメーターなどの基本的なことがわかってしまう。
勇者など、上位クラスの限られたものしか使えないスキルなのだ。
「村長でも、レベル20に達していない・・」
「よく、この辺境地で生きていられたな・・」
ゴブリン程度に苦戦していた理由がわかった。
村長の力強い若い息子達の家族が、他の都市へ移住してしまったからだ。
この村の基本は、牧畜と畑作と漁業。
それだけでは、たいした稼ぎにはならず、一家を食わせていけなかったのかもしれない。
そして、特産品も見受けられない。
「やっぱり、老人の割合が多いな・・。大丈夫なのか?」
こちらの世界でも、老人になるとステータスの能力値まで下がってくる。
年齢が高くなればなるほど、赤ちゃん返りのように、力だけではなく、判断力まで落ちてしまうのだ。
奴隷になったとしても、老人ならば通常の価格評価から一気に落ちてしまう。
さらに、レベル上げ自体も難しくなっているから、貴族からも人手としては人気がないのだ。
少子高齢化の見本のような村だ。
一時のオストマルク王国の屯田兵として出来た町の歴史があるようだ。
昔の国境の砦よりも北東あり、拠点の村として住みついているようなのだが、人口も確実に年々減っている。
このまま行けば、この村は自然消滅してしまうだろう。
「やっぱり。困った場所ネ」
メグミも返事をして、考え込んでいる様子だ。
◇◆◇◆◇
ゴブリンは、醜い顔や身なりで、体も小さく、知能も低い。
雑魚モンスターとしても有名なのだ。
簡易的な牢屋に、68名ものゴブリンが繋がれている。
緑っぽい色の1m20㎝位の小さなゴブリン達である。
装備はバラバラであり、防具などの統一感もあまりない。
リーダーらしきゴブリンの目は、いまだに怒りで溢れているようだ。
そして、ギャーギャー騒いでいる。
「ギャーギャーギャー」「ギャーギャーギャー」「ギャーギャーギャー」
「ちょっと、うるさいな」
「ギャーギャー騒いでいるわネ」
このゴブリンもパッと見たところ、レベルが低かった。
「あーぁ、やっぱりこんなモンかな・・。今から【威圧】のスキルを使うよー」
「承知したでござる」
「いいよー。ケッケッケッツ」
「わかったワ」
「そうか。わかった」
面倒なので、ゴブリン全体に向けて【威圧】のスキルを発動した。
「バタ・バタ・バタ」「バタ・バタ・バタ」
泡を吐いて倒れたり、おしっこを漏らして気絶するゴブリンが多発した。
その他のゴブリンは、ガタガタ震えて、地面に立っていることもできない。
この【威圧】のスキルは、魔王討伐の際に役に立った。
レベルの低いキャラクターは、その場に立っていることができなくなるのだ。
本気の【威圧】をすると村人まで、倒れてしまうので、加減をしたつもりだが、やはりゴブリンは弱すぎた。
リーダーのゴブリンには、【死】のイメージがこびりつき、恐怖によって反抗することもできなくなったようだ。
圧倒的な力の差があると、このような事になってしまう。
そうこうする内に、【奴隷紋】の魔法アイテムを使い、68名のゴブリンを『奴隷』にすることにしたのだ。
「さっさと奴隷にでもしてしまおう」
「そうするのが、いいんじゃないィ」
もしかすると、奴隷のゴブリンも役に立つかもしれない。
一度試してみようと思っている。
「上手く行ったら、儲けものかな?」
「私もそうだと思うワ」
こうして、ゴブリン68名が奴隷となった。
もちろん、ゲンゾウとルークとフィガロの3人には、「ご苦労だった」と、それぞれ労いの言葉をかけている。