願いの代償は その4
実際に、厄の狼を退治に向かった二人。
さて、二人の計画は成功するのか……。
【願いの代償は その4】
☆ ☆ ☆
いた。
聞いていた特長と一致するし。
何よりあの〈厄〉の大きさ……間違いねえ。
例の狼だ。
とりあえずあたしは、バイクに跨ったまま持っている刀を銃に変形させてそいつを狙う。
刀が銃に変形するのは……まあ、ヒーローものじゃあよくあることだ。
多分、そのあたりのイメージがあたしに影響を与えたんだろう。
ってことはまあ、今はいい。
こいつで。
ヤツの眉間辺りを……。
ガシュッ、ガシュッ、ガシュッ……と。
撃ってやる。
すると、
「うぉ! ホントに弾き飛ばしやがった」
事前情報としちゃあ知ってはいたが、実際やってみると。
今まで雑魚だったら一発で仕留めてきた弾が〈弱い攻撃〉って扱いで弾き飛ばされるってのは何とも言えんもんだ。
まあ、なんとも言えんからそのまま起こった事実を口にしたんだが。
――なんて。
あたしが平常心保つために内心で冗談を考えていたら。
狼のやつはあたしの方を向いて。
そして、ゆっくりと、だが徐々に速度を上げて、あたしの方に迫ってきた。
よしよし。
予定通りだ。
次はこのバイクであいつが罠を張っている路地裏まで、あたしがこの狼を引き連れていけばいい。
ってなわけで。
早速、逃げる!!
☆ ☆ ☆
敵の注意を引き付けて逃げてきた桃華さんのバイクの音を確認し。
僕は罠の軌道のタイミングを計る。
実のところ、これは一回僕がやった罠とほぼ同じものだ。
だから……
来た!!
よし!! 無事に桃華さんは狼を後ろに引き付けたままこちらに向かって来ている。
そして。
まず桃華さんのバイクが。
次に厄の狼が。
僕の能力で生み出した石でできた〈花〉の目印の上を通過する。
このタイミングで。
僕はまず路地裏に張り巡らされている配管に鉄扇を当て。
能力で金属の〈蔓〉に変える。
この蔓は、僕が自身の名前の関係で扱いやすく、また魔除けとしても知られる藤を模したものだが。
僕の能力の場合、本物の藤の蔓に変わるんじゃあなくて、金属の性質を残したまま変わる。
だから、それを使ってあの狼の脚を捉えれば、簡単に逃げることはできない。
そして。
次は。
別の配管に能力を使い。
金属でできた楠を模した〈大木〉を狼よりも高い位置から生やす。
ただし、これは地面に対して横に向かって、そしていびつな形で成長させ。
根元から早く枯れるように、そして先端の方が太くなるように操る。
そう。
こうすることによって〈大木〉は。
まるで金槌のような形になった上で。
狼に向かって、落ちる!!
よし!!
今回も、ここまでは成功した!!
前回はここで反撃を受けたが。
今回は――
「桃華さん!!」
「おうッ!!」
僕が声をかけるまでもなく、桃華さんはあいつの顔の向いている方から斜めに移動し、そしてそこで武器の刀に何か厚みのある札……のようなものをセットして構える。
そして、あいつが。
予想通り、口を開けてエネルギーを吐き出す。
が、事前にそれを知っている桃華さんは、その攻撃の死角に入り込む形で攻撃が終わるのを待つ。
そして。
狼の攻撃が終わった、その瞬間に。
「喰らえ!! 桜雅大紅蓮刃――――ッ!!」
と狼の開いた口の中に突きを……
……え?
これは……まさ……
まず……
とう……かさ……
☆ ☆ ☆
…………無事? なのか?
いや、全身痛ぇからダメージ無しって訳じゃあねえだろうが。
とりあえず意識はあるって感じか。
しかし、一体……って。
おい!!
藤麻!?
テメェ……傷だらけで……何を?
☆ ☆ ☆
二撃目。
あいつがそれを放つ可能性は考えていたが。
結局こうなるとは。
何とか桃華さんを弾き飛ばして直撃から守るとともに。
狼の攻撃を前にやった時の経験を生かして〈茂み〉を作って防いだ訳だが……さて。
こうやって、相手が攻撃を吐き終わって、口を開けたまま硬直している前に。
あれを持った僕がいるというこの状況になったという事は。
やはり、この狼は僕が倒すしかないってことなのだろう。
いや。
確かに、桃華さんの攻撃が当たっていたら多分、こいつを倒せたのだろうが。
それは無理なのだと思う。
何故なら、こいつは僕の持ち主の女の子が作り出した物語の悪役だ。
ならば。
その悪役を倒すのは、結局、彼女が作った物語の主役の僕しかいない。
なので、それ以外の人が倒そうとすると、何らかの問題が発生して失敗するようになっているのだ。
勿論、あくまで僕の推測だけれど。
まあ、実際。
こうなってしまったんだから仕方がない。
しかし。
それにしても。
話を聞いて、こいつを倒せるのは僕しかいないと予測した際に、これを用意しておいて、やはり良かったというところだろう。
この、金属とガラスでできたカタバミの実を。
これは現在、そのままの状態を維持するように僕が触れて指示を出している実だ。
だが、カタバミの実は本来、衝撃を受けたら弾けるもの。
つまり、僕が手を放して、状態維持の指示が薄れればいずれ破裂する。
これを――
僕の、あの子との繋がりの力を込めて。
この狼の口の中に。
投げ込むことにしよう。
この実は、大きさとしては実に小さいものだけれど。
込めた力は別に実の大きさとは関係ないだろうから。
多分、倒せるだろう。
ああ。
そういえば。
カタバミの花言葉は〈輝く心〉だったななんて。
今更、どうでもいいことを思い出しながら、僕は――
(続く)
こうして、狼は退治された……ようですが。
果たして藤麻は、そして桃華はどうなったのか!?
次回で「願いの代償は」編、終了!!