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静夢と美麗と神様と  作者: 窓井来足
願いの代償は
7/9

願いの代償は その3

前回、とりあえず自己紹介をした桃華と藤麻。

その続きとして今回は、彼らが戦っている敵について触れるようなのですが……。

 【願いの代償は その3】


 ☆ ☆ ☆


「結果としてどうなったか……それがお前の気になることじゃあないのか?」


 そう。

 僕が気になったのは彼女がああいった格好をしている事自体ではない。

 そこから先の結果だ。

 そして。

 先の彼女の言葉から推測するに、


「やはり、出たのですか? あれ、厄の怪物が」


 という事になる。

 勿論、彼女の方にも出たというのはあくまで僕の推測だ。

 しかし、桃華さん側からしたら。

 彼女は僕が何かと戦っていた事は知っているし、また僕のこの格好が持ち主の好みに合わせたものだとも知っている。

 その彼女が「自分が好かれたいと願った結果どうなったのか」について、僕が知りたいという前提で話すのだから。

 その話の内容が今僕の抱えている問題。

 あの怪物の事だろうとは想像がつく。

 さて。

 その僕の推測だが、どうやら当たっていたらしく、桃華さんは、


「ああ、出た訳だ。いつものとは桁違いの大きさのヤツがな」


 と口にした。

 ちなみに、ここで彼女が「いつもの」と言っているのは。

 僕たち雛人形はそもそも、持ち主の女の子の代わりに厄を引き受ける役目があるので、普段から厄と戦っているのだが。

 そういういつものとは違うヤツだという事を確認する意味合いなのだと思う。

 がまあ、それはともかく。

 予想通り、桃華さんもあれと戦っていたのなら、僕の聞きたい事は、


「桃華さんは、あれを一体どうしたんですか?」


 という事になる。

 一度僕はあれと戦ったわけだけれど。

 正直、攻撃が通用しないというか、全く倒し方がわからないというのが現状だ。

 なので、ここは経験者の桃華さんに早めに聞きたい。

 のだが、桃華さんは、


「まあ、待て。あんまり焦るな」


 と言いながら、僕の空になっていたカップに熱いコーヒーを注ぎ、


「順番に話してやるが……先に結論を言うと、あいつを自分の力で倒そうってのはよせ」


 と言ってきた。


「自分の力では駄目なんですか?」


 僕としては、そもそもあれを自分の力で倒せるのかが疑問だったので、彼女のアドバイスは全く想定外のものだったのだ。

 なので、僕はその点を早速質問したのだが、桃華さんは、


「だから焦るなって」


 と言って、自身の持っているカップのコーヒーに口をつけ。

 それからしばらくして、


「まずあれ、あの厄の怪物は、お前も予測しているように『自分が好かれたい』と願った雛人形(やつ)の元に、持ち主の女の子がそれなりに成長したあたりで現れる」


 と、説明。

 僕自身はそれを直感的には理解していたが、根拠に欠けていたので、


「その根拠は?」


 と訊ねる。

 すると、桃華さんは、あごに指を当てながら、


「そうだな……あくまで他の連中から聞いた事や、あたし自身の例からの推測だ」


 と答え、さらに続けて、


「そしてそういうあの手の怪物が現れたヤツからの情報をまとめると、怪物の特徴は二つ」


 と言いながら、右手の指を二本立てて、僕の方に突き出してきた。

 その、あまりにビシッとした手の突き出し方に僕はちょっと驚いたが、どうも桃華さんはこちらが質問するだろうという前提でそういった仕草をしたのだと思ったので、とりあえず、


「一つ目は?」


 と、訊ねてみる。

 すると、桃華さんは立てていた指のうち中指の方を曲げてから、


「まずあいつらはあたしたちの持ち主の女の子、彼女が〈怖いもの〉としてイメージした怪物に似た性質を持っている」


 と解説。

 その、いかにも〈説明しています〉という態度から。

 もしかしたら彼女は僕みたいな状態の雛人形に遭遇した時に説明できるように練習でもしていたのではないかとも思ったが。

 それは指摘しない事にし、とりあえず僕は、


「〈怖いもの〉というのは?」


 と訊ねた。

 すると、桃華さんはさっきまで立てていた右の人差し指で自分自身を指しつつ、


「例えばあたしの場合、巨人のような怪物が現れたが、これは多分持ち主の女の子が幼い頃に見た〈人食いの巨人〉が登場するアニメか何かの影響だと思う」


 と説明、さらに、


「他にも、蛇が苦手な女の子が元の持ち主なら蛇。吠える犬が怖かったって女の子なら犬……みたいな感じだ」


 と続ける。

 さて、これを聞いた僕は、


「犬……」


 と、思わず気になったところを呟いていた。

 それに、彼女は、


「ん? 犬がどうした?」


 と反応。

 確かに、彼女側からしたらこのタイミングで何故僕が犬に反応したのかはわからないのだろうが、既にあいつと戦っている僕からしたら、


「僕の場合も犬……というよりは狼みたいなやつでした」


 というところである。

 ……の、だがしかし、


「犬に吠えられたとか、そういう嫌な思い出は僕の持ち主にはなかったと思うのですが……」


 ということでもある。

 最も、雛人形である僕は彼女が外出先でどんな目に遭っていたかなんて全て知っているわけではないから、もしかしたら近所に怖い犬がいたとかはあり得るけど。


「昔話とかアニメとか、そっち系の可能性は?」

「昔話……」


 桃華さんにそういわれて、僕は少し考えてみる。

 正直、昔話で僕の持ち主が狼を怖がっていた覚えはあまりない。

 だが、狼も含めて〈あるもの〉に対してならばあるいはと気がついたので、僕は、


「もしかしたら、僕の持ち主は『丸呑みにされる』というのに恐怖を感じていたのかも」


 と言ってみた。

 とはいえ、その丸呑みをしてくる相手が狼だったか、蛇だったか、鯨だったか……そんなあたりはよく覚えていないが。

 とにかく、僕の持ち主はそういうのが出てくる物語とかが苦手だった気がしたのだ。

 この僕のあげた意見に対して、桃華さんは、


「仮に、その狼みてぇのが『丸呑み』のイメージから生み出されたってんなら、行動パターンとか特徴もそれっぽくなってるはずだが、どうだ?」


 と訊ねてきた。

 さて、僕はちょっと考えてみる。

 が、そもそも狼が相手を食べようとするのは普通だし。

 そしてそれが丸呑みかは、僕が実際に食べられていない以上、分かりようがない。

 なので、何を基準に判断するべきか……。


「別に直接的に丸呑みにつながる行動じゃなくても、なんか特徴とかがあればそいつがヒントになるかもしれねえんだが……」


 僕が中々意見をあげなかったためか、桃華さんは更にアドバイスをした。

 なるほど。直接的じゃないものでも……とはいえ。

 あの狼について、僕が普通の狼のイメージと違うと感じた部分をあげても、


「強いて言えば、あの狼は攻撃を跳ね返す……というところぐらいしか、目立った特徴がないですね」


 となってしまう。


「跳ね返す?」


 流石に、攻撃を跳ね返すのが丸呑みと関係あるように思えないからか、桃華さんは首をかしげて訊ねる。

 だが、それ以外にあまり目立った特徴を覚えているないので僕は、


「ええ。弱い攻撃ならばそのまま跳ね返しますし、強い攻撃ならば一度エネルギーを体内にためて吐き出してきます」


 と答えるしかない。

 さて。

 この答えを聞いて、桃華さんは少しの間、人差し指を下唇に当てて考えていたが。

 やがて、


「そうか。じゃあやっぱ丸呑みのイメージかもな」


 と口にした?


「え?」


 僕としては、攻撃を跳ね返すのが何故丸のみになるのか、理解できなかったので思わず声をあげた。

 が、それに対して桃華さんは「これは予測だが」と前置きしてから、


「怪物とかが丸呑みする話でよくあるパターンから考えて、外からの攻撃が効かないようになってんじゃねえかって事だ」


 と説明してきた。

 丸呑みする話によくあるパターン……さて、なんだっただろうか?

 と、僕が知っているいくつかの昔話や童話をヒントにしばし考えてみたが。

 これは、


「もしかして、内側から倒す……という事ですか?」


 となる。

 確かに、怪物が丸呑みした場合に、内側から攻撃して倒したり、吐き出させたりする話はよくあるけれど。

 そういう物語から作られた怪物だから外側からの攻撃は効かない――ということなのだろう。

 そして、ならば。


「じゃあ、もしかして大きなダメージを与えて口を開いた時に、中に攻撃を叩き込めば……」


 倒せるという事になる。

 この場合、あくまで内側が弱点というならば、本当に丸呑みされなくても、何かを体内に叩き込むのでもいいのだろう。

 なら、僕には手がある。

 そう、おそらくあれを――


「そうだな。だが、お前の攻撃で倒すのはやめておけ」


 僕が怪物を倒す方法をイメージしていると、桃華さんはそう口にした。


「いや、でも」

「おそらく今お前、自分の能力であいつを倒せると思ったんだろう。確かにそれはできるが……あまり良くはねえ」

「良くはない……んですか?」


 僕が僕の能力であいつを倒せるのなら、何も問題ないと思うのだけど何か駄目なのだろうか?

 ……そういえば。


「もしかして、自分の力で倒すなとか、あともう一つの怪物の特徴とか、そのあたりと関係があったりするんですか?」


 そうだ。確かそもそもこの怪物に関する話の最初の部分は「自分の能力で怪物を倒すのはよせ」だったし、怪物の特徴は二つあるんだった。

 ならば、ならばそこに彼女の言う倒さない方がいい理由があるのだろう。

 そう思って、僕が訊ねてみるとと、桃華さんは首を縦に振って、


「ああ。あいつを倒すのには普通の雛人形が普段出せるエネルギーじゃあ足りねえ。そして、その足りない分を補うためには犠牲にしないとならないものがある」


 と言った。


「犠牲にしないとならないものとは?」


 果たして一体、今の僕に何を犠牲にしろというのかがわからなかったので、特に考える間もなく僕は桃華さんに問う。

 すると、桃華さんは、少し時間を空けてからゆっくりと、そしてしっかりと、


「繋がりだ。お前が持っている持ち主とのな」


 と告げた。


「繋がり……」

「あたしもそれを犠牲に、一撃を叩き込んで倒したタイプだが。以来、持ち主に会うことが出来ねえ……というよりは、持ち主に関して顔とか名前とか、一部の記憶が消えちまうせいで探すのもできねえ」


 なるほど。

 確かに、自分が好かれたいと願った為に生まれた怪物ならば、その好かれたいものとの縁を切るぐらいの事をしなければ倒せないのかもしれない。

 しかし、そうすると僕はやっぱりその〈繋がり〉を犠牲に……


「あたしとしちゃあ、お前にあたしみたいな目に遭って欲しくはねえ。だから自分の力で倒すのはやめておけ」


 え?

 それじゃあ、


「一体どうやって」

「ん? あたしが倒す」

「はい?」


 桃華さんがさっき普通の雛人形が普段出せる力では倒せないと言っておきながら、その後すぐに自分が倒すと言い出したので。

 僕はこの人は何を言っているんだ?

 そう思って、彼女の方を見た。

 すると、彼女は、


「あたしは、自分みてえな目に遭うヤツを無くしたいと思って、ずっと鍛えてきた。だから、あいつを倒せるだけの力がある」


 などと言いながら、自信ありげにこぶしを握ってみせる。

 いや、しかし、


「力って……」


 と、こちらとしては疑いたくなるところである。

 だが、桃華さんはその自信ありげな様子を崩さず、


「雛人形ならお前にもなんかの力、特殊能力ってのか? そんなのがあるだろう? あたしの場合、あれを磨いた」


 と、平然と返してきた。

 だが、僕にはそのあたりの事情がよくわからない。

 何故なら、


「さっきから鍛えたとか、磨いたとか言っていますけど。そもそも持ち主との繋がりをエネルギーに変換しないと勝てないような敵なんですよね? そんな奴に対して、鍛えたら勝てたりするんですか?」


 というところである。

 もし、鍛えただけで勝てる相手ならば誰も自分の持ち主との繋がりを犠牲に怪物を倒したりせず、別の方法で相手を倒すわけで。

 つまり、常識的に考えたら鍛えて倒せる相手のはずがないという事になるからだ。

 なので、僕としたら「鍛えた程度で勝てるわけがない」というところだったのだが。

 その質問に対して桃華さんは、


「ん? ……ああ、そういうことか」


 と自分がどうして疑われているのかを理解したらしく、続けて、


「あたしの場合、持ち主の憧れがヒーローだったためか、そういう影響を強く受けている。おそらくその影響か、どうも普通よりも鍛えて成長する伸びしろが大きかったらしくてな」


 と説明した。


「ヒーロー……そういう事も」


 あるんだろうか?

 確かに雛人形を持っている女の子の意思が僕たちに反映されているならば、ヒーローに憧れた女の子の持ち物だったから戦闘面での成長率が高いという事もあるのかもしれないが。

 だからと言って、そんな彼女ならあの怪物を倒せるという保証もない。

 しかし、一方で。

 繋がりを犠牲にしないで倒す他の方法も思いつかない。

 勿論、時間をかけてその方法を探すという手もあるが。

 あの怪物がいつ僕の持ち主を襲うかわからない以上、早めに決着はつけたいからそんな時間的余裕もない。

 そして何より。


「あたしは、あたしみてぇに持ち主の事を忘れて生きるようなヤツを生み出したくなかったから、あの日から鍛えてきたんだ……あたしの事、信じてくれねぇかな?」


 と言っている桃華さんの申し出を断るのもどうかと思う。

 さて、それじゃあ僕は……。


(続く)

こうして、実際にその怪物と戦うことになった二人。

果たして――

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