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静夢と美麗と神様と  作者: 窓井来足
願いの代償は
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願いの代償は その1

とある二月下旬の寒い日。

その男は、とあるものと戦っていた。


かつて自分が願った事から生み出されたのではないか、そう思いながら……。

 【願いの代償は その1】


 過去に犯した罪というのは、ある日、牙を剥いて襲ってくる。

 などと、気障な言い回しを思い浮かべながら。

 僕は路地裏の冷たい壁に背中を預けて、その〈牙〉どうするかを考えていた。

 全く。

 雪混じりの小雨の中、息を切らせながらあんなものと戦うことになるなどとは。

 願いなんてものは、やはり、自分の立場をわきまえてするものだったということなんだろうか?

 相手の幸せを願うのが正しい在り方だったというのに。

 僕があの子に好かれたいと願ったことが。

 結果として、あれを、あの怪物を引き寄せたんだろうか?

 あくまで僕の直感だけれども。

 あれは、そんな理由で生まれたものだという気がしている。

 ならば――

 僕がケジメをつけないとならないのだろう。

 僕は彼女を護る。

 それが僕の生まれた意味……なのだから。

 とは思ってみたものの。

 もう限界だ。

 さっきの戦いで〈力〉を、使い過ぎた。

 まったく。

〈蔓)と〈大木〉を生み出すだけでも全力使う気でやったのに。

 それが効かなかったどころか。

 あんな反撃をされて、それを防ぐのに更に〈茂み〉を生み出してしまったから。

 能力も使えないし、そもそももう体力なんてほとんど残っていない。

 だが、それでも。

 僕はあいつを倒す術を。

 考えなければならない。

 しかし。

 もう。

 ………………


「お、おい! そこのお前……大丈夫か!?」


 !?

 僕の事が見える誰かがいるのか?

 一体、誰……

 ……この雰囲気と黒い見た目からしたら、あいつもおそらく。

 僕と……同じ……おび……いや、違……


 ☆ ☆ ☆


 ったく、この時期ならばと予想はしていたが。

 まさか本当にあれと戦っている奴がいるとはな。

 二月の下旬も下旬、二十七日。

 あたしは派手な服の男を拾った。 

 拾ったなんて言い方、人間に対してなら問題かもしれねーが。

 戦い疲れてぐったりして、話しかけた時には意識を失ってんのを。

 担いで運んで連れてきたからまあ、拾ったといって構わねえだろう。

 まあ、最も。

 あたしも、こいつも人間じゃねーから、拾ったという言葉を使っても問題ないだろうが。

 何せ。

 あたしも。

 そしてこいつも。

 人形……なのだから。

 雛人形。

 そう。

 そいつがあたしと、この派手な男の正体だ。

 って言っても、人間が思うようなお雛様そのものってワケじゃあねえ。

 イメージとしては……付喪神、いや。

 ちょっと違うか。

 人形という〈物自体〉じゃあなくて。

 ものに集まった思いとかイメージとか。そういう精神エネルギーってのか?

 そんなのの集合体ってのがあたし達だ。

 なんで、あたしたちは大きさは人形サイズだが、見た目は人形じゃあなくて人間のそれに近いし。

 その上、顔つきなんかはああいう人形と違って今時の人間と似たり寄ったりだったりもする。

 しかも、あたしの場合は訳あってスーツにネクタイって洋装で。

 更にでかい刀なんて持っているから。

 どっちかというとなんかの漫画やゲームとかのキャラっぽいというか。

 まあ、少なくとも世間でいう〈女雛〉のイメージじゃあねえだろうなと思う。

 そして、この派手な男。

 ぶっちゃけ、最初、花柄の服着てっから女雛かと思ったが。

 拾ってみたら赤い花柄の羽織着た男雛なんで驚いた。

 その上こいつ、持ってるのは鉄扇……か?

 何でこんな格好してんだかよくわからねーけど、変わったやつだな。

 …………いや、まあ。

 あたしも人のこと言えねーんだけど。

 しっかし、こいつが。

 さっき戦っていた奴はおそらくあたしの時と同じ――


「う……うぅ……ん? こ、ここは……?」


 あ、気がついたか。

 じゃあなくて。

 流石に知らねえところのベッドにいきなり寝かされていたんじゃあ不安かもしれねえから、とりあえずは、


「おう、ここはあたしの……まあ、アジトみてぇなもんかな」


 とでも、とりあえず答えておくか。

 ……と思ったが、いや。

 流石にアジトって言い方だと一層困惑するかもしれねえから、


「やっぱ今の無し。ここはあたしの隠れ家だ」


 と言い直しておく。

 が、それを聞いたこの男は首をかしげて、


「何で雛人形がアジトだか隠れ家だか、そういう名称のものを持っているんです?」


 と訊ねてきた。

 まあ、当たり前だよなぁ……と思うが。


「まあ、いいじゃねえか」


 とでも言って、ここは適当に誤魔化しておこう。

 などというあたしの思惑もむなしく。

 どうやらこの男は雛人形がアジト持っている事だけでなく、あたしの容姿も気になったようで。

 あたしの事をまるで、珍しい動物でも見るかのように眺めてから、


「というか、あなた女雛ですか? 何でまたスーツにネクタイなんて……」


 とも言ってきた。

 もし、同じことを他のヤツに言われても、そんなに気にしなかっただろが。

 今回の場合、派手な花柄のもん着ている男雛にそう言われたんで、流石のあたしも咄嗟に、


「テメェも随分派手なもん着てるじゃあねえか?」


 と思わず返しちまった。

 だが。

 返してみてから、ふと。

 こいつが戦っていただろうものが、があたしの時と同じようなもんってんなら。

 こいつが派手な花柄の羽織着てんのも。

 あたしがスーツにネクタイなんて身に着けてんのも。

 大体同じ理由かもしれねえ。

 だとすると、下手に話題にしたらこいつの機嫌が悪くなるかもなあ。

 なんて、考えて。

 あまり考えずに言い返したことをちょっと反省した。

 だが、こいつは、


「僕がこういう派手な服着ているのは、僕の持ち主がこういうのを望んだからです」


 と、特に気にした様子もなく、淡々と返してきやがった。

 ん――つまり。

 そんなにあの事には、悩んでないって感じなのか? こいつは。


 ☆ ☆ ☆


 あとになって「しまった」と思っても遅い。

「もしも」なんて仮定を考えても現実は何も変わらない。

 そもそも。

 僕が今、こうあることは、過去の過ちの結果でもある。

 だから、過去の過ちを無かったことにしたら、今の僕自身を否定することになってしまう。

 なんて。

 そんな事を考えて、僕はこの派手な羽織の事も受け入れている。

 そして。

 おそらく彼女もそうなんじゃあないかとも思う。

 僕の場合は、持ち主の女の子が、僕に、つまり男雛に対して「地味だからいらない」と言った事が。

 僕が今こうなったきっかけだけれど。

 彼女の場合は、おそらく――


「んだよ?」

「え?」

「さっきからあたしの事ジロジロ見て、なんか気になんのかよ?」

「じ、ジロジロ見てましたか?」


 どうやら僕は、彼女がなぜあんな格好をしているのか推測するために。

 無意識のうちに彼女の事を見ていたらしい。

 やっぱり、他人にジロジロ見られるのは気分が良くないのだろう。

 ここは謝った方がいいのだろう。

 と思っていると、彼女は。


「もしかしてテメェ」


 と言いながら、鋭い目つきで睨んできた。


「な、なんですか?」


 思わず訊ねてしまったが。

 もしかして余程、見られるのが嫌……、


「あたしの事、すっげえ好みの美人だから見ていたとかじゃあねえよな?」


 ああ。そういう事か。

 確かに会ったばかりの男性に、そういう目で見られているかもとしたら、警戒するかもしれない。

 だが、僕はそういうつもりで見ていた訳じゃあない。

 だから、ここははっきり、そしてきっぱりと。


「いえ、それは流石にないです」


 と、言ってみる。

 が、それに対して、彼女は即座に、


「いや、そこでそんなはっきり、全力で否定すんなよ、オイ」


 と返してきた。

 なるほど。

 確かに真顔で、迷いもなく否定するのはそれはそれで良くないかもしれない。

 ――が、とはいえ。

 好みかは置いておくとして。

 僕は彼女の事を〈美人〉と評価するのにはちょっと違和感がある。

 いや、実のところ、顔やスタイルはお世辞抜きに良いと思うのだが。

 彼女の場合、それは美しいというより、正直に言って美人というよりは、


「カッコいい、か?」

「はい?」

「ナルシストみてぇでこういう聞き方は気持ち悪ぃけど。お前があたしを見ていたの『なんで雛人形なのにカッコいい系のなんだろう』って考えてたからだろ?」


 そう。

 彼女の言う通り。

 僕は彼女に対して、そういう疑問を持って見ていたのだ。

 勿論、推測としては大体わかるけれど。

 それでも、彼女から聞いてみたいところなのだ。

 何せ。

 その彼女の話が、もしかしたらあの怪物を倒すヒントにもつながる可能性がある。

 とはいえ。

 流石に人の過去をあれこれ聞くのは……、


「ったく」

「え?」

「どうせ、テメェはあたしの話を聞きてぇけど、他人の過去について詮索するのは失礼じゃあないかとか思ってんだろ?」

「いや、別にそういう訳じゃあ……」

「隠すなって、面倒くせぇ。今話してやっから……ま、これでも飲んでな」


(続く)

さて、男雛が戦っていた敵とは?

そして女雛の方は何故、そんな服装をしているのか。


次回に続く。

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