賽銭の行方 その4
さて、前回、ペンデュラムを用意した静夢達は〈中〉に向かったのですが。
具体的に〈中〉とは何で、そしてどんなところなのか。
そして、ペンデュラムを使って何をするのか? 結果的に目当ての五円玉は見つかるのか?
【賽銭の行方 その4】
中というのは神様の住む空間である。
と、言っても本殿の事ではない。
まあ、本殿は当然のことながら物理的に施錠されているので、神社関係者ではない二人が入ることができないのだが。
では一体、神様の住む空間とはどこか。
といえば。それは異界と人間界の狭間に作られた小世界である。
で、この小世界。
本来ならば本殿にある鏡からしか向かうことはできない。
のだが、静夢と美麗は特殊な異世界侵入術により、神社の境内から直に入り込むことができる。
その術は秘術中の秘術なので文章で表現することが禁じられているが。
今回も無事、二人は神様の住む空間に侵入することができた……が。
「げ! また増えているじゃん……」
「フハハハハ!! だから後悔するなと言ったじゃろう!!」
「いや、むしろ『公開するな』の間違いじゃあないかな?」
というように。中は異様な世界だった。
いや、異界との狭間にあるんだから異様なんだろ? と思われるかもしれないが。
そうではなく……
部屋中に張られた聖画……とは名ばかりのキャラクターポスター。
大量に置かれた神像……として扱われているフィギュア。
その他、デフォルメされたキャラクターのぬいぐるみや、抱き枕、タペストリー、マウスパッド、作中小道具を再現したグッズなどなど……が所狭しと並ぶ。
そう、この異様な世界は。
つまるところ。
……オタ部屋だった。
この神様は、自身の住む聖域を。
別の意味で聖域にしてしまったのである。
まあ、これを見ると。
人間世界にある本殿が、そのまま神様の部屋として使われているわけではなくて良かった。
という感じだが……
まあ、それはともかく。
そんなオタ部屋の真ん中にあるテーブルの上を。
とりあえず作業ができるように片づけた葦子と。
葦子の部屋にある三人の共用アイテム置き場の中から、ダウジングに使うためのセットを用意した静夢。
そして、静夢は、
「ここまでの移動中に言ったように、僕たちは〈最初の五円玉〉を探すために、ダウジングをしようと思う」
と、顎を親指でいじりながら言う。
それを聞いてた美麗は「ん、それはわかった」と頷くが、
「でも何故モスアゲートよ?」
とテーブルに自分が置いたペンデュラムを指さしながら訪ねる。
すると静夢も同じようにペンデュラムを指さし、
「ん? まずこの石は富と繁栄に関係がある」
と説明。
だが、当然の事ながら自らが経営する雑貨屋の商品であるペンデュラムに使われているモスアゲートについて、美麗が知らないわけもなく。
美麗は、
「それは知ってる。ついでに結婚や子宝、豊作にも関係がある」
とすぐに返答する。
この美麗の解説じみた返答を効いて、
「なんか、妾の扱っているご利益に似ておるな」
という神様。
そして更にその神様の言葉に静夢は、
「そっ。だけど、現在。ここの神社の力は〈情報の繁栄〉に僕たちがちょっとばかりいじらせてもらっているからねつまり……」
などと言いながら、ゆっくりと神様と美麗、二人の顔を交互に見つめる。
さてこれに対して。
つまりと言われてもなんだかわからない神様は、
「つまりなんじゃ?」
と首をかしげたが、
一方、言われてピンときた美麗は、ポンと手を叩いて、
「ああ。なるほどなるほど」
と納得。
静夢もそれに「だろ?」と返す。
この、人間二人が理解しているのに神様である自分だけが理解できていない状況に葦子が不満を持たないわけもなく。
葦子は、
「妾を置いて勝手に納得するでない!! 説明せい!!」
と要求。
そして、今までの経験から彼女がそう聞いてくることは大体わかっていた静夢は、
「だから、今ここにある賽銭の五円玉達。これを〈子〉としたら逆に、〈賽銭には五円〉の情報の大元になったのは〈親〉。だから……」
と、言い。それに美麗も、
「この神社にある道具で、ちょっとばかりこの石の性質を逆転させて〈子孫から親を探す〉に書き換えれば……」
と、自分が納得したことが合っているかの確認も兼ねて続ける。
そしてその美麗の推測は当たっていたため、静夢が更に、
「どのあたりに、最初の五円玉が存在するかわかるってわけだ」
とまとめた。
これを聞いて葦子は「なるほど!」ととりあえず納得はしたが、
「……て、そんな上手くいくのか?」
と疑問と呈した。
正直、パワーストーンの性質をいじって一部逆転させ、それで探し物が見つかるのなら誰も苦労はしない。
そう葦子は思ったのだ。
これに、静夢はあっさりと、
「普通は無理だろうね」
と認めるが、美麗が
「だけど、ここには神様の力がある。つまり――」
続け。
そして静夢と美麗は二人で葦子の瞳を見つめて、
「後は君の力にかかっているってわけだ」
「後はよっしーの力にかかっているってわけ」
と、ほぼ同時に同じような事を言った。
さて。
実は腹の中で「人間たちに貴重な五円玉を探させて、妾は楽していよう」などと考えていた葦子は。
急に自分が努力しなければならなくなって、しばしの間、どうしようかと考えた。
しかし、ここでできませんとか、やりたくないとか言ったら、神様としての自分の威厳が示せない……いや、傍から見たら既に「威厳なんてあるのか?」状態だが。
彼女としては自分はカリスマ有名神なのである。
今はただ落ち目になっているだけで、ここから巻き返して頂点に返り咲く……予定なのである。
まあ、そもそも彼女が頂点にいた事自体あるかが不明だし。
仮にあったとしても「縄文時代に、現代でいうこの神社の周囲でなら頂点だった」とかになるのだが。
ともかく。
彼女は自分が偉い神様だと思い込んでいるので。
ここで人間に舐められるような選択はできないのであった。
一方の人間側の二人は。
当然、葦子がそういう性格であることを考慮し。
葦子はこのダウジングへの協力を多分引き受けるだろうし。
それによって貴重な五円玉が見つかって、葦子あるいは神社のパワーが上がれば。
結果的に周囲で商売している自分たちの店の商売も繁盛する。
とまで考えて、先のような発言をしている。
……が、まあ。
そんな思惑以上に。
自分たちが復活させた神様に、愛着と信頼を持っているから。
頼めば引き受けてくれるという気持ちもあるのだが。
まあ、そういう事情はさておいて。
ともかく、この計画は葦子が次第という事であるが、すでに説明したように、彼女は人間に舐められたくないという彼女は、
「クックックッ……ついに妾の力を見せる時が来たようじゃな!!」
と発言するが早いか、モスアゲートのペンデュラムを素早くテーブルから取り、
「我が力、見るがよい!!」
といって、その他のテーブルに置かれた道具を、まるで複雑に歯車が組み合わされた職人技の冴える時計の動きのように的確かつ確実にセットし。
そして今回探す五円玉から見たら〈子〉に当たるはずの五円玉をセットして。
「さあ、魔石よ!! 我らの求むるものを指し示せ!!」
と自らの神力を込めてペンデュラムの力を活性化させた。
…………が。
ペンデュラムは。
その〈子〉に当たるはずの五円玉を指した後。
付近にある、他の五円玉を不規則に指し示すだけで。
具体的な方向を示さなかったのだった。
「ちょっと。ダウジングってこれ、できているの?」
「いやぁ、一応、明らかに不自然な動きをして五円玉を指しているからダウジングそのものは機能しているはずだけどねぇ」
予想外のペンデュラムの動きに困惑する美麗と静夢。
そして美麗は一応、
「そこにある五円玉の中に、探している〈親〉の五円玉があるってことは?」
と葦子に尋ねる。
が、葦子はそれに、
「んなのあったら、とっくに気がついておるわ!!」
と、当然のことを聞くなと言った強めの口調で返す。
「ということは、ダウジングは発動しているけど」
「何故か大元の五円玉を指していないってこと」
「かなぁ……」
このよくわからない状況に、美麗、静夢、そしてダウジングをしている当の葦子もしばし考え。
そして、葦子が疲れて。
神力を使えなくなり。
ダウジングをしているペンデュラムが機能を失い。
単なる振り子の動きをするようになり。
それから、数十秒経ったとき。
「あ! そうか」
と声を発したのは美麗だった。
「どしたの?」
まだ何故ダウジングがうまくいっていないか、考えていた静夢は天井を見上げていた頭を、美麗の方に向けて尋ねる。
すると美麗は、
「いや、多分大元の五円玉はある意味あたしたちが持っているんだ」
という。
これに対して今度は葦子が、
「じゃから、そうじゃったら妾が気がついて……」
と、やや怒った口調で言ったが途中で美麗の考えが理解できたらしく、
「あ、そういうことじゃったか」
と納得する。
「いやいや、二人とも。だから何?」
置いてきぼりにされているは静夢は、そういいながら両手を自身の前に出して、わからないといったジェスチャーをし、早く答えをと催促する。
彼は別段せっかちな方ではないが、今回の場合、ダウジングで大元の五円玉を探せると提案したのが自分なので。
それが予期せぬ理由でできないとなったため、原因が気になっているのだ。
そしてそういう空気を感じたので美麗は、実にシンプルに、
「多分、最初の五円玉は古くなったから溶かされて再利用されてる」
と言った。
そう。
何故ペンデュラムがいくつもの五円玉を指したのか。
何故ペンデュラムが指した五円玉は葦子が見た感じだと最初の五円玉に見えなかったのか。
その答えは、
「つまり、ここにある五円玉がごく一部だけは最初の五円玉だからペンデュラムが反応し」
「そしてほとんどの部分は最初のではないから、特によっしーが感じるほどのパワーはなかった」
という事である。
が、この答えに納得しても、
「…………おい、なんじゃそのオチは!!」
と、この展開には納得していない葦子である。
が、と言っても、
「まあ、でも仕方ないじゃん。最初の五円玉はもうないってことだから探しようもないし」
と美麗が言うように。
ないものは探しようもないのであった。
が、実のところそれでは困るのが葦子である。何故なら、
「いやいや、困るじゃろ!! これだと妾、今月収入的にピンチじゃし!! その上、さっきのダウジングで力、結構使ってしまったし!!」
という事である。
そして、そういう事情を聞いて静夢は、
「そうかい……それじゃあ、前に話したように、うちの店の手伝いしてくれないかな?今なら、ちょっとは給料を上げられるかもしれない……けど?」
と素早く、そしてさりげなく口にする。
実は。
彼としては自分が言い出したことで葦子が力を無駄に使ってしまった事に責任を感じているが。
同時に、葦子が「最初に言いだしたのは、静夢、お前じゃ」などと言い出しては困るので。
先手を打って、仕事を与える事でこの話を終わらせ用という事にしたのだ。
また、同時に。
最初から、この件で五円玉を見つけて彼女の信頼を勝ち取ったら、その信頼を利用して自分の喫茶店で葦子を働かせる予定であったのを。
今回、結果が駄目だったので、弱っているところに救いの手を差し出すという形で、そのバイトに誘うというのを実行したというのもあるのだが。
が、そんな彼の思惑にすぐには気がつかない葦子は。
あっさりと。
「何!? 給料上がるかも!? 本当じゃろうな!? う、うむ流石は静夢じゃ。いい奴じゃのう」
と店の手伝いをするという話に乗ったのであった。
☆ ☆ ☆
と、こうして。
「さあて、今日も一仕事するかの?」
と、静夢の喫茶店〈ヴィスキオ〉で現在、葦子はアルバイトとして働いているのだった。
ちなみに。
現在の彼女の容姿は神社にいた時の童女より大人な見た目の、大体十代後半程度のものである。
これは、流石に小学生程度の少女が店で働いているといろいろ問題になり。
親戚の娘が手伝っているといっても、それはそれで説明がややこしいことになりそうなので。
神様である葦子が、自らの容姿を変更してこうなっているのだ。
また、その時に彼女は自らの能力で、巫女服っぽい服装から、メイド服っぽい服装に変更もしている。
本来、静夢の店は別段そういう店ではないのだが。
静夢は「これはこれで面白い」として許可し。
また、そのメイド服と葦子の喋り方、そして自らを神と称する部分が合わさって。
結果としてお客の方が葦子の事を「そういうキャラづくりをしている中二病な女の子」と解釈したので。
そういう点でもあまり問題になっていない。
そして。
こうして、土地の神様が常に店にいることで。
〈ヴィスキオ〉は葦子が働き始める前より、少しずつとはいえ繁盛していたりもするのだ。
勿論。
それが狙いで、静夢は葦子を店のバイトとして誘っていたので。
今の状況は静夢の思惑通りなのだが。
結果的に、後の二人のうち。
美麗は、あの際に使ったペンデュラムが静夢に売れたから納得しているし。
葦子は葦子で、なんだかんだで喫茶店の仕事が面白くなってきたらしいので。
結果的には、全員納得できる形で、この件は終わったのであった。
これについては。
「ま、五円玉を探してご縁が深まったから、いんじゃないかな?」
という静夢の言葉でまとめておくとしよう。
今回で「賽銭の行方」は終了です。
できれば今後も、このキャラクターや設定を使った小説を引き続き書きたいと思っているので。
応援、よろしくお願いします☆