賽銭の行方 その3
さて、この章でそしてタイトルにもなっている人物の最後の一人。
麦宇野美麗が登場するのですが。果たして彼女はどんな人物なのか……。
【賽銭の行方 その3】
鳥居の前にバイクを止め、境内に入ってきた、二十代前半ぐらいに見える比較的高身長の女性。
どこぞの民族衣装のような柄の、ライダースジャケット風なデザインをした上着を羽織っている彼女こそ、先ほど静夢が呼び出した麦生野美麗、その人である。
スラリと長い脚や、鋭い目つき、艶のある髪などは美しくはあるが。
それは女性的な美しさより、どちらかと言えば男性の美形を思わせるようなものであり。
実際、彼女が今着ている服装も男が着ても違和感がないものだった。
で、そんな彼女が鳥居の前にバイクを止めて、境内に入ってきたとき。
拝殿の傍でうとうとしていた静夢は、その際の音で彼女が来たことを確認し、鳥居の方に顔を向ける。
そしてそんな眠そうな、静夢に向かって、美麗は、
「よっ! お待たせ!! つーか、シズさん。今日仕事は?」
と挨拶する。
「ん? 今日は正月営業の代休」
静夢は、本当はバイトに店番に任せているだけで開店しているのだが、一日ずっとバイトに任せていると正直に言ったら、美麗にあれこれ口出しされそうだから咄嗟に嘘をつく。
そしてそれを受けた美麗は「そっか」と軽く対応してから、次に葦子の方に、
「あ、よっしーじゃん。あけおめ! ってか、何? 賽銭少なかったんだって?」
と挨拶。
ちなみに。
〈よっしー〉とは当然、葦子のあだ名である。
また、ここで葦子の名称について紹介すると。
ヨシコという名前は何でも、神様自身が気に入ったキャラクターの名称から頂いたらしいのだが。
この神社の元の名称がおそらく淡嶋が変化したものであり。
そして淡嶋と葦には関連があり。
葦を葦と読むのは忌み言葉としてはメジャーなので。
単にキャラクター由来の名称で適当につけた……ではない、とは神様は言っている。
まあ、それ以外に。
仮に葦の方で読むと、氏名どちらも最初が〈あ〉で始まるとか。
その上、氏名どちらの頭文字も植物由来の漢字になっているとか。
細かいこだわりがあるらしいのだが。
まあ、そんな葦子のそういうオタクじみた設定へのこだわりは置いておくとして。
賽銭の件について触れられたその葦子について話を変えると。
彼女は、眉を吊り上げて、
「そうじゃ! 賽銭が五円玉ばかりで少ないのじゃ!! これではガチャが回せん!!」
と、飛び跳ねながら返した。
そしてそれを受けて、静夢が頭を掻きながら、
「で、ムギさんにあれ、持ってきてもらったんだけどね」
と告げる。
「ああ、あれ? でもあれで良いわけ?」
そういって、少し首をかしげながら上着のポケットから、持ってきたそれを取り出す美麗。
それというのは――
「緑の石の振り子……ダウジングのか?」
「そ、モスアゲートのペンデュラム。うちの雑貨屋の商品」
ちなみに、価格は4千五百円、と続ける美麗だが。
この価格は単に石としての価格ではなく、施されたデザインの美術品としての面を考慮した価格なので、一般的なペンデュラムよりやや高くなっている。
と、言うところまでは付け加えなかった。
が、そのあたりは特に興味がない葦子は、
「ダウジングってあれじゃろ? 失せものとか探すヤツ……それでどうやって五円玉を探すのじゃ?」
などと率直な疑問を述べる。
「五円玉を……探す?」
再び、首をかしげる美麗。
実は。
美麗は静夢から「ダウジングしたいからモスアゲートのペンデュラムで使えそうなの持ってきて」というメッセージしか受け取っておらず。
何を探すのかは全く聞いていなかったのだ。
これは静夢が事情を説明しなくても彼女ならペンデュラムを持ってくるだろうと考えたためであるが。
さて、じゃあそろそろ何をするか説明しようか。
そう思った静夢は。
しかし、外で立ち話もどうかと思ったので。
「まあ、説明はとりあえず〈中〉に入ってでいい? かな?」
と、美麗と神様両方に尋ねる。
これに対して美麗は「いいけど」と返事をしてから、
「よっしー、今〈中〉大丈夫?」
と、神様に確認。
それを受けた神様はにやりと笑みを浮かべて、
「良いが……妾の領域に入ったことを後悔するなよ?」
などと意味深なことを呟いた。が、
静夢、美麗の二人はいつもの冗談か何かと思い。
特に気にせず、その〈中〉に向かったのであった。
(続く)
と、まあ今回は次の舞台である。
〈中〉に移動するところで終了ですが。
さて、その中とは? そして後悔するなとはどういう意味なのか。
こうご期待!!