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静夢と美麗と神様と  作者: 窓井来足
賽銭の行方
2/9

賽銭の行方 その2

さて、前回の話の続きです。

賽銭に五円玉という、比較的ありきたりな状態を受けた静夢が。

果たして、何を考えたのか……。

 【賽銭の行方 その2】


 賽銭に五円玉。

 それが〈五円〉が〈ご縁〉とかかっているためのものとは当然、世間一般に知られている事で。

 そして同時に。

 賽銭というものは、日本の通貨が円になる前からあった文化である以上、そんなものは関係ないという事も、先の〈ご縁〉と〈五円〉ほどではないがよく知られている情報である。

 とはいえ。

 人間に対して、言葉の持つ力は強く。

 例えば、聖書には「始めに言葉ありき」という有名な一説があり。

 また、その他の宗教やシャーマニズムでも言葉は重要な地位を占めており。

 そして当然、日本でも〈言霊〉としてその力は歴史的あるいは文化的に崇められているように。

 人は言葉に左右されるものである。

 なので、「音が同じだから縁起が良い」ということ自体が言葉に関係があり。

 それに加えて、そういう情報が言葉として目や耳に入った事により。

 人はそれらの情報に支配され。

 気がつけば五円玉を賽銭箱に投げてしまっているのだ。

 しかもその上。

 金額的に見れば、たかが五円で良いというお手軽さも相まって。

 その「賽銭には五円玉」という文化は根強くあるとも言える。

 が、


「ご縁と五円がかかっているからと言って、(わらわ)がそんなチマチマした額で満足するわけがないじゃろうが!!」


 というように。神様がそれで満足するかは別問題である。

 もっとも。

 本来の神様ならば、人間の経済制度など関係がないので。

 心がこもっていれば、どんな金額でも、あるいはそもそもお金でなくとも満足するものなのだが。

 何せ葦子(よしこ)は現代文化にどっぷりつかっている強欲な神様なので、それで納得するはずがないのだった。


「うーん。復活させるときに現代人の価値観をベースにし過ぎたかなぁ?」


 静夢(しずむ)美麗(みれい)は、この神様を復活させる際に。

 現代人と相互に理解しあえるように、彼女の価値観の基盤に現代の価値観を与えた。

 が、その結果として彼女がお金で大事なのが、基本的に金額となってしまったのではないか? と少し反省。

 それと、同時に。

 静夢はその際彼女に与えた〈新たなご利益〉についても思い出したので、


「そういえば。この五円玉がご縁にかかっているという〈情報〉の根源自体を見つければ、君の力が上がるんじゃないかな?」


 というアイディアを出した。

 実は、この神様。

 元々は子宝や安産、つまり子孫繁栄の神様なのだが。

 復活させた二人により、その子孫の部分で。

 遺伝子(ジーン)ではなく模倣子(ミーム)の要素も扱うように書き加えられているのである。

 ここには。

 彼らが本来求めたご利益は商売繁盛であり。

 そのためには子孫繁栄より、情報拡散の方がありがたかったという。

 ごく個人的な理由が入っていたりもする。

 また、当然のことながら。

 オタク文化という形で自らの情報を広め、信仰を得ようという発想に、この神様がなったのもそのあたりの影響もあり。

 その上、この神様の別の御利益に人形供養もあったため。

 結果としてフィギュア収集を〈仕事〉として始めてしまった……などもあるのだが。

 まあ、それはいいとして。

 話を戻すと。

 静夢は、五円玉がご利益あるという情報の発生源を手に入れれば。

 それが情報を司る今の神様(かのじょ)の力になるはずだ。

 と、考えたのである。

 これに対して、葦子は、


「情報の根源? そうか! 妾の力を使って、賽銭に〈最初にご縁という言葉にかけて入れられた五円玉〉が来るようにすればいいんじゃな!?」


 と、静夢が言いたい事をすぐに理解。

 この辺りは、力がまだないと言っても、あるいは復活したばかりと言っても、流石は神様である。

 だが、問題は。


「で、どうやってその最初の五円玉を引き寄せるのじゃ?」


 という話である。

 何せ、今の段階では神様にそんな力はない。

 確かに「神社の賽銭箱に五円玉」自体はありきたりの状況だから、先ほど話題にした「ガチャで星五レアキャラを引く」より、引き起こすのは容易だが。

 だからと言って、それで目当ての五円玉が来る可能性は低い。

 そして、目当てのものに絞らず、単に五円玉を賽銭として持ってくる人間を引き寄せるために神様が使用するエネルギーは、平均的な参拝者から得られるパワーの約三回分である。

 三人集めて溜まったパワーで一人引き寄せても、当然、長続きはしない。

 勿論、正月の際に溜まったパワーはあるので、それを利用すれば多少の参拝客は呼べるのだが。その間に最初の五円が手に入る可能性はまあ、低いだろう。

 なので、これは気長に。

 最初の五円を入れてくれる参拝客が、たまたま現れるのを待つしかない。

 勿論、入れる側は自分が手にしているのがそんな五円玉だとは知らないのだが。

 神様は情報を司る神様である。

 その五円が来れば当然わかる……はず。

 何故なら。


「妾がもし、その五円を見れば、その五円には他の五円への〈糸〉は出ていても、他の五円からの〈糸〉はないと分かるから確かに、どれが最初の五円かはわかるかもしれんが……」


 というように。

 最初の五円は他の五円に影響を与える情報の〈糸〉のようなものが出ているだけで。

 情報を与えられる側の〈糸〉は入ってはいないはずだからである。

 さて、この神様の言葉を受けた静夢は。うんうんと頷いてから。


「そうだね? だから……美麗ちゃんにちょっと持ってきてもらおうかな、あれを」


 と言って、彼女にSNSを使って連絡をしたのだった。

ちなみに。

子孫繁栄を情報繁栄に書き換えるというのが現実的かは知りません。


が、そもそも登場人物の一人麦生野美麗の名称の由来が。

「種を蒔く人のたとえ」にあるので。

この「情報を司る神様」という設定はこのままでいきたいかと。

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